番号三、ラドガーは、古い台所の隅から現れるような存在だった。高くも低くもない体つきで、肩口にはいつも薄い埃のような匂いがまとわりついている。図書館の者たちのように大仰ではない。けれど、彼が立つだけで、空気はどこか生活の温度を思い出す。住処として選ぶのは広間でも書庫でもなく、熱の残る場所だ。暖炉のそば、配膳室の裏、昼間の陽が一筋だけ差し込む窓辺。人が通りすぎ、何かを置き、少しだけ休んでいく場所を好む。 ラドガーは長く座っていることができない。けれど落ち着きがないのではなく、見張っているのだ。湯気の立つ鍋が吹きこぼれないか、乾いた花が水を吸ったか、誰かが置き忘れた手袋が雨に濡れないか。小さな変化にすぐ気づき、黙って手を貸す。彼の癖は、何かを直すときに必ず一度立ち止まり、まるで自分のしたことを確かめるように、指先でそっと辺りをなぞることだった。壊れたものを強く抱きしめるのではない。少しだけ位置を戻し、息を吹きかけるように整える。それが彼なりの優しさである。 オーベロンが道を惑わせ、コルロが境を守るなら、ラドガーは暮らしの継ぎ目を縫う。三体が並ぶと、世界はただ森や影だけでできているのではないとわかる。立派な城も、鍵のかかった部屋も、朝の支度をする小さな台所も、すべて同じ夜の中に置かれているのだ。ラドガーはその事実を、誇ることなく受け止めている。 彼は語り終えるときも、派手に身を引いたりはしない。ただ、誰かが温め直した茶碗をそっと両手で包むように、静かに視線を下げる。そうしているうちに、図書館の奥から、かすかな皿の触れ合う音がした気がした。まだ見ぬ数多の存在たちもまた、それぞれの住まいと癖を抱えて、この静かな列に加わるのだろう。今はただ、三体目の名前を覚えておけばよい。ラドガー。日常の端を守る、小さな手つきの持ち主である。
図書館で語る三十の伝承者
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