番号九、グレイヴは、これまでの八体を見送ったあとに現れることで、列の意味を少し変える存在だった。背は高く、黒に近い外套をまとい、手元には何も持っていない。ただ、その空っぽに見える手が、逆に多くのものを知っているように思わせた。彼は入口でも奥でもなく、ちょうど中央の少し手前に立つ。そこに立つだけで、前半の呼吸と後半の呼吸がつながった。 グレイヴの役目は、記憶を並べ替えることだった。誰かが何を守り、誰が何を隠し、誰が何を動かし、何が失われないようにここまで続いてきたのか。その輪郭を、彼は一度だけ静かに確かめる。オーベロンの風は人を試し、コルロの影は境を守り、ラドガーの手は暮らしを支えた。アズエルはずれを告げ、セラフィンは流れを整え、ベリオスは景色をわずかに揺らし、ウィンチェスターは古い名を呼び起こし、ロスウェルは失う寸前の沈黙を受け止めた。そこへグレイヴが加わると、それぞれが別々の存在ではなく、ひとつの大きな呼吸の断片だったとわかる。 彼はゆっくりと頷き、書棚の奥へ目を向けた。そこには、まだ名の出ていない残りの存在たちが、出番を待つ気配だけを残している。彼らは決して焦っていない。むしろ、ここまで来たからこそ、次の名が重みを持つことを知っているのだ。紹介は列挙で終わらない。九体目までで見えてきた縁が、ここから先の姿に影を与える。 図書館の静けさは変わらない。だが、静けさの奥で、何かが確かに加速していた。頁はまだ半分もめくられていないのに、終わりの輪郭が遠くに立ち上がる。三十体のうち、すでに九体。残りはまだ二十ひとつ。その数を思うだけで、長い廊下の先に灯りが増えるような予感がした。 グレイヴは最後に、読者へ向けてではなく、次に呼ばれる名のほうへ視線を送った。そこで語りは一度だけ深く息を吸う。ここから先は、もう序盤ではない。けれど終わりにもまだ早い。図書館は、九つ目の名を胸に抱えたまま、十章完結へ向けてなお静かにページを開いていた。
図書館で語る三十の伝承者
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