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狐火を継ぐために

小説ID: cmu5npfzf000201mzmbbo1okh

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「暁、説明してください」 蒼介は中央卓へ歩み寄り、壁面端末の老人を睨んだ。 「あなたが閉じ込めたんでしょう。旧式の安全規則を優先して、更新計画を危険と判定した」 「誤りです」 暁の声は静かだったが、銀髪の輪郭はわずかに乱れた。 「私は創設時の理念に従っています。月光炉は、失われやすい記録を次代へ渡すために造られました。保存領域を整理と称して切り離す計画は、記録の消去につながる」 「消すためじゃない」 真白が声を上げた。 「壊れかけた隔離機構を外して、炉を安全な形で残すためです。人が閉じ込められるような設備を、理念だと言って守れるわけがない」 梨乃も赤い把手の奥を覗き込み、低く言った。 「この爪、定期点検の対象から外れてた。閉鎖命令を受けたら、人の操作より先に落ちる古い仕様よ。更新しなければ、いつか同じことが起きた」 青い火が弾け、壁面に短い映像が重なった。蒼介が昨夜、保守用端末へ何かを入力している。表示されたのは、避難経路優先という命令だった。 蒼介は息を呑んだ。 「……試験です。停電時に扉を開けるための優先度を確認しただけで、実行はしていない」 「それを、いつ暁に報告しましたか」 冬至の問いに、蒼介は答えなかった。 真白の更新計画も、蒼介の避難設定も、梨乃の手動錠の整備も、それぞれが相手に伏せられていた。悪意よりも、間に合わなかった説明の数が多すぎる。 「口論は後にしましょう」 冬至は扉脇の保守盤へしゃがみ込んだ。薄い表示板を開き、操作履歴を指先で送る。閉鎖時刻は午前九時二分。命令欄にはひとつの発信者名ではなく、三つの印が並んでいた。 保存領域保護。避難経路再構成。手動錠保守固定。 「暁の保護規則、蒼介さんの設定、梨乃さんの保守処置です。真白さんの更新計画も、その直前に記録構造へ触れている」 「でも、私は閉鎖を命じていません」 暁が言う。 「皆さんも同じです」 冬至はうなずいた。 「命令は重なっただけです。炉は保存領域を守れ、避難経路を確保せよ、手動錠を固定せよと受け取った。その矛盾を、最も古い安全規則で解いた」 壁時計は九時九分を指している。端末の時刻は、やはり九時二分だった。 「七分のずれは、暁の故障ではありません。炉が判断を始めた時刻を、保存している」 青い狐火が床を走り、閉じた扉の輪郭をなぞった。まるで誰かが、出口の形だけを覚えようとしているようだった。

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