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狐火を継ぐために

小説ID: cmu5npfzf000201mzmbbo1okh

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制御室の空気が凍りついた。 真白が冬至と端末を見比べる。 「暁。今、何と呼びましたか」 銀髪の老人は答えず、北側の壁に浮かぶ狐火を見つめた。火は古い扉の輪郭から離れ、床へ細い数字を焼きつける。零時十三分。映像に現れた時刻と同じだった。 冬至は中央卓の記録を呼び出した。現在の日付とは一致しない。さらに遡った炉の基幹履歴で、その数字は施設の創設日を示していた。月光炉が初めて共鳴試験を行った夜の、零時十三分。 「昨夜の真白さんではない」 冬至は静かに言った。 「映像は今の出来事に、創設日の記録を重ねている。廃止された認証印も、七分の時刻差も、そのためです」 蒼介が画面を覗き込む。 「じゃあ、狐火の映像に出た俺たちは」 「皆さんの行動を材料にして、炉が古い記憶の形を与えたのでしょう。似た操作、似た迷いを結びつけている」 暁の輪郭が、わずかに明るくなった。 「創設日に、炉は不安定な共鳴を起こしました。当時の職員は停止を試みましたが、記録層が互いを写し取り、制御できなかった」 老人の声には、長く封じていた頁を開くような響きがあった。 「そこへ、名を告げぬ協力者が現れました。炉の前に立ち、月光粒子が記憶へ触れる道筋を示したのです。その者は、人の一生では説明できない古い記憶を持っていました」 北の壁の狐火が揺れ、白衣を着た若い研究者たちの間に、一人の影が映った。顔は光に隠れている。ただ、差し出した手の周りを青い火が巡っていた。 冬至は指先を握り込んだ。 まだこの施設が新しく、北側通路に塗料の匂いが残っていた頃。月のない夜に頼まれ、炉の癖を見ただけだった。人間の研究者たちは、彼を旅の観測者と思ったはずだ。名など残さぬよう、去り際に記録の消去まで求めた。 だが炉は、消される前の一瞬を覚えていた。 「その協力者の記録は、保存領域の最深部にあります」 暁は冬至へ向き直った。 「私は、あなたを識別しました。冬至様」 真白たちの視線が集まる。冬至はすぐには答えなかった。否定すれば、暁はさらに古い記録を開くだろう。認めれば、今ここで守るべきものが増える。 狐火の時刻印が、再び零時十三分へ戻った。 「昔の協力者がいたとしても、今は関係ありません」 冬至は炉の履歴を拡大した。 「大切なのは、炉がその記録を失うことを恐れている点です。保存系が動き始めた八時五十五分は、北側の旧記録層が更新計画によって照合された時刻と重なっています」 梨乃が息を呑む。 「炉は、扉を閉める前から、あの古い記録を抱え込もうとしていた」 「ええ。そして私たちの命令を受け、守るべきものと逃がすべき人を、同時に失わない方法を探している」 北の壁に描かれた扉が、かすかに鳴った。存在しないはずの向こう側から、遠い昔の足音が一度だけ響いた。

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