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失敗だらけの録音が愛おしい

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失敗だらけの録音が愛おしい
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奥田の長い説明は、最初の一文字を巨大なくしゃみに奪われた。 「へえっくしょい!」  箱の正面から飛び出した音が棚に跳ね返り、三人の背後でもう一度くしゃみをした。  関が扉を見た。 「外に応援が来たのかと思いました」 「昔の同僚だ。花粉に弱い男でね」  奥田が懐かしそうにうなずくと、装置が続けた。 「しまった、奥田、接点に鼻水を飛ばすとは……」  澪は鉛筆を止めた。関も止まった。奥田だけが説明を続けた。 「同僚が私の名前を借りた可能性がある。声も、室内の反響で似る」 「自分を名字で叱る方だったんですね」 「そこまで記録する必要はないよ」  澪は笑いを飲みこみ、外観寸法の欄に戻った。関の鉛筆は用途欄に向かっていた。 「くしゃみ保存用、と」 「まだ確定していません」 「では鉛筆で。消せる失敗はいい失敗です」  奥田が抗議しようと箱に手をかけると、今度は落ち着いた声が流れた。 「測定値は、おおむね再現性のある誤解です」  短い沈黙のあと、同じ声が小さく言った。 「誤差だ。誤解を発表してどうする」  棚の反響が「どうする」を念押しした。 「この部屋、追い打ちが上手ですね」  関が笑いながら台車の毛布を広げた。箱の底を調べるなら、傾ける面を先に養生したほうが早いという。  澪が傷の位置を記録し、関が支え、奥田が昔の留め金の外し方を思い出す。三人の手順が初めて一列に並んだ。  底板の縁に、薄れた登録印があった。備品番号とは別に、使用者番号と日付が刻まれている。 「所有者を登録する印だ。共同研究でも、持ち主ごとに切り替えていた」  番号を見た奥田が、今度は迷わず言った。  澪は脇の小窓に残る記録票と照合した。再生のたび、票の番号が変わる。奥田が声の主を挙げ、関が再生順を控えると、音の並びに共通点が見えた。 「成功したときの音が、ありませんね」  くしゃみのあとの後悔。言い間違いの訂正。物を落とした直後のため息。持ち主の失敗直後だけが残っている。 「ずいぶん偏った日記だな」  奥田の苦笑に、箱から乾いた音が重なった。 「また逆につけた。澪には落ち着けなんて言えんな」  澪の鉛筆が止まった。  家ではいつも、何かを直しながら話していた声だった。 「今の、父です」  関は用途欄にかけていた鉛筆を、そっと離した。

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