「端子がだめでも、耳で聞けるなら録れませんか」 関が携帯端末を取り出した。澪も自分の端末を机に置く。独自形式の媒体に対応する機器はなくても、声が空気を通る間なら、別の器へ移せる気がした。 父の番号に合わせ、録音を始める。 「取っ手にも都合があるらしい」 三人には、はっきり聞こえた。けれど端末から返ってきたのは、ざらついた音と、遠くで戸を引くような響きだけだった。父の言葉は、その奥でほどけていた。 「こちらでは、取っ手の都合しか録れてませんね」 関は自分の端末でも試した。正面、少し横、棚から離れた位置。どの録音にも物音は残るのに、言葉がつながらない。 奥田が冊子の再生方式の頁を開いた。 「複数の発音部から出る音を、聞く位置で合わせる仕組みだ。普通の録音機では、言葉の明瞭さを保てない場合がある、とある」 「耳には届いているのに」 澪は端末を見た。父の声を逃がすまいと近づけるほど、録音の中では遠くなる。 奥田が咳払いをした。 「取っ手にも、都合があるらしい」 低くした声で、間まで似せて言った。澪が顔を上げると、奥田は少し得意そうだった。 「長く一緒にいたからね。ほかの言葉も、ある程度なら」 「保存というより出演です」 関が静かに指摘した。 奥田は口を閉じたあと、普段の声に戻った。 「出演料は要らんのだが」 澪は笑った。似ているところもあった。けれど、似ている部分を増やしても、父自身の記録にはならない。 「ありがとうございます。でも、代わりを作るのはやめます」 端末の録音を止め、目録を引き寄せた。聞き取れた父の言葉と、それに続く奥田の返答を、一字ずつ書く。所有者番号、記録簿の日付、取付不良の記述も添えた。 さらに、装置のつまみの位置、聞いた場所、携帯端末二台で録音を試みたこと、その録音では言葉を明瞭に確認できなかったことを記した。 「口まねは、参考資料になるかね」 「原音と混同するので、入れません」 「厳正な審査だ」 澪は末尾に、音声の複製は未達、と書いた。保存できたとも、方法が存在しないとも書かなかった。 埋められない欄を、似た何かで埋めなくていい。父の声が聞こえた場所と、ここまで確かめた事実を、まずは紙の上に残した。
失敗だらけの録音が愛おしい
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