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失敗だらけの録音が愛おしい

小説ID: cmw0tf374000301s6c7d4dktd

失敗だらけの録音が愛おしい
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澪は一覧表と小窓の番号を照合し、父の登録区分へつまみを合わせた。  引き出しを滑らせる音。続いて、かたん、と軽い部品が落ちた。 「取っ手にも都合があるらしい」  聞き慣れた声が、妙に真剣だった。  少し間を置いて、奥田の若い声も聞こえた。 「ねじを締めてから引いてくれ」 「都合が悪かったのは私か」  関が口元を押さえた。 「取っ手に責任を移すにも、取っ手がついていませんね」  澪は笑った。父が引き出しだけを開け、手には取っ手だけが残る。その姿が、音だけで目に浮かんだ。  家では、ぐらつく椅子も閉まらない戸棚も、父に頼めば直った。工具箱を開ける背中には、困りごとを全部しまえるような広さがあった。 「父でも、こんなことをしたんですね」 「したよ。直すのも早かったが、失敗に名前をつけるのも早かった」  奥田が記録簿の該当箇所を示した。取付不良、再固定、確認済み。三つの短い記述の間に、今のやり取りが収まっている。  澪は目録を読み返した。製作年、材質、寸法、完成時の性能。きちんと埋めれば装置の説明になるはずだった。けれど、ねじを締め忘れた人間の居場所は、どの欄にもなかった。 「来歴に、試験中の使われ方も加えます。成功だけでは、この装置を残す理由が伝わりません」 「私のくしゃみも来歴かね」 「接点を清掃した記録と一緒に」 「清掃を先に書いてほしい」  澪は笑いながら、記録簿を挟む中性紙を折った。角をそろえ、爪ではなく指の腹で折り目を押さえる。紙を傷めるな、と工具箱の横で父に教わった動作だった。  その指が、ふと止まった。 「それから、これは仕事の話だけではないんですが」  二人が顔を上げた。 「父の声を、保存したいです。目録に言葉を書くのとは別に、この声を」  言ってしまうと、急に鉛筆が軽くなった。登録作業の後ろに隠していた願いを、机の上へ置けた気がした。  関は装置の端子をのぞき込んだ。 「運ぶ物が一つ増えましたね。まず、移せるか調べましょう」 「説明書なら、保守資料の束にあるかもしれん」  奥田が棚へ向き直る。  澪は目録の余白に、録音の保存方法を確認、と書いた。今度の一行は、誰にも見えないように小さく書く必要がなかった。

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