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失敗だらけの録音が愛おしい

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失敗だらけの録音が愛おしい
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録音の番号と所有者の名前を結びつけるには、もう一枚、資料が必要だった。 「一覧表は壁に掛けてあった。入口から見て右だ」  奥田が指した先には、湾曲した展示板が立っていた。澪は室内配置図を広げた。図面では壁際にあるはずの板が、今は棚の前に張り出している。 「反響の実演に使ったんですね」 「小声が遠くまで届く。便利だったよ。内緒話には不便だったが」  関は板の端を確かめ、台車との間隔を測った。 「まず奥を空けて、こちらを先に……」  手帳に向けた小声が、離れた棚の前で突然、よく通る声になった。  奥田が背筋を伸ばした。 「了解。こちらを先にどうぞ」  奥田が右へよける。行き先を譲られた澪も右へよける。台車を引こうとした関が二人を見て左へよけた。  結果、誰も先へ進まなかった。礼儀だけが室内を一周した。 「では、そちらを後に」  関がつぶやくと、奥田は棚の奥へ戻った。 「後ろですね」 「いえ、順番です」  澪も一歩戻り、三人は見事に最初の配置へ復帰した。搬出作業としては零点、再現性なら満点だった。 「関さん、今、指示しましたか」 「自分の段取りを確認しただけです。頭の中にも現場監督がいるので」  澪は配置図と板の曲面を見比べた。関が立つ位置と奥田のいた位置は、図中の印に重なっている。 「この板が声を集めています。小声なのに、奥田さんのところでは号令みたいに聞こえるんです」 「どうりで立派な指示だった」 「内容は未完成でした」  今度は澪が、全員に聞こえる声で順番を伝えた。奥田が通路の小箱を片づけ、関が板の脚を確かめる。澪は古い展示番号を控えてから、二人と板を支え、壁際の梱包位置へ移した。  関が試しに「右へ」とささやいた。 「聞こえんね」  奥田が満足そうに答えた。 「聞こえてますよね」 「号令でなければ、動かなくていい」  板の背後には、黄ばんだ紙が額に入っていた。旧所有者一覧。澪はさっき控えた父の番号を探し、その横で指を止めた。  三浦修一。  聞き覚えのある声が、見慣れた名前と結びついた。余白には、部品交換の日付まで細かく並んでいる。 「父も、ここで記録していたんですね」  奥田が隣に立った。 「書くのは丁寧だった。取り付ける向きは、ときどき大胆だったけど」  澪は小さく笑い、目録の所有者欄を埋めた。今度は、鉛筆が止まらなかった。

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