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失敗だらけの録音が愛おしい

小説ID: cmw0tf374000301s6c7d4dktd

失敗だらけの録音が愛おしい
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澪は父の番号に戻し、まだ聞いていない記録を最後まで再生した。  ねじが転がる音のあとに、「床の水平まで調べるとは、熱心なねじだ」と声が続く。奥田が首を振った。 「拾ったのは私だ。熱心なのは私の腰だった」  澪は笑いながら、記録簿の該当箇所を確かめた。部品落下、回収、再点検。短い文字の間から、父がしゃがむ姿まで見えてくる。  最後の番号になった。 「よし、片づけ終わり」  その直後、軽い音が二つ跳ねた。鉛筆が床へ落ち、転がっている。 「終わったと思ったところから、もうひと仕事」  父は笑っていた。困ったというより、仕事のほうに呼び戻されて、しょうがないなと返事をするような笑い方だった。  澪も声を出して笑った。 「耳に挟んでおけばよかったのに」 「それだと、探す仕事が増えるね」  奥田の返事に、関まで笑った。部屋の反響が三人の笑いを返し、少しの間だけ人数が増えた。  再生が止まる。澪はつまみに置いた指を離した。もう一度聞きたい気持ちはあった。それでも、父をこの声だけに預けておかなくていいと思った。  何でも直せる背中も、取っ手だけ持って困る手も、鉛筆を探す横顔も、自分の記憶に一緒に置いておこう。  澪は最後の言葉と番号を記し、目録を見直した。所有者、使用目的、記録の仕組み、複製を試した結果。保守資料の頁番号と、初期化で音声が失われる範囲も確定する。 「確認できた内容は、全部書きました。初期化に同意します。正規の復旧をお願いします」  言い終えてから、鉛筆を机の奥へ置いた。 「まず、落とさないところに」  関がうなずいた。 「ひと仕事の予約を減らしましょう」  奥田は連絡器で外部担当者を呼び、目録に記した内容と操作対象を読み合わせた。向こうの確認を受け、保守資料の指定手順に沿って操作する。澪と関は装置から手を離し、完了の返答を待った。  緑のランプが消えた。  装置は何も言わなかった。収蔵室に、紙を押さえる澪の指の音だけが残る。 「復旧を確認しました。扉を開けます」  連絡器の声に続いて、錠が低く鳴った。関が取っ手を引くと、防災扉は廊下の明かりを細く招き入れた。  澪は目録を閉じ、装置の札を確かめた。  終わったと思ったところから、もうひと仕事。  今度は、自分の番だった。

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