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無口な先生の差し入れ

小説ID: cmpl4rnrh000q01p4wqyuisiq

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五日目の放課後、部室の扉を開けた瞬間、誰かが息を呑んだ。机の上に並んでいたのは、いつもの袋菓子ではない。小ぶりな箱が三つ、等間隔にきっちり置かれている。箱の表面には、地元の老舗菓子店の控えめな印が押され、端には細い紐が同じ角度で結ばれていた。 「ついに本気出してきた」 先輩が真っ先に声を上げる。 「箱入りとか、格が違うんだけど」 「しかも並べ方、やたらきれい」 「偶然じゃないね、これ」 一つ目の箱を開けると、白と薄紅の二色の餅菓子が、まるで展示の配置図みたいに整列している。二つ目は焼き印の違う小さな最中が四つ、三つ目は季節限定らしい栗の焼き菓子だった。どれもただ甘いだけじゃなく、見た目にも気を配った選び方だった。 紙片には、今日は少し特別です。無理はしないでください、とだけある。いつもの短さなのに、どこか整いすぎている。部員たちは顔を見合わせたまま、しばらく黙った。 「これ、差し入れっていうか、作戦だろ」 「見栄えまで考えてる。絶対、展示の完成形まで頭に入ってる」 「先生、ただ甘いもの置いてるだけじゃない」 その言葉に、場が少しざわついた。誰もがなんとなく感じていた違和感が、ひとつの輪郭を持ちはじめる。種類は毎回違うのに、箱のサイズは必ず机の端に収まる。紙の置き方も、菓子の向きも、どこか同じ癖がある。無造作に見えて、実は全部そろえられている。 部長が最中をひとつつまみ、指先で回した。「これ、計算してるな。偶然でここまで揃う?」 「揃える必要があるの、知ってる人じゃないと無理だよね」 後輩の声が少しだけ小さくなる。 誰かが窓の外を見た。校舎の渡り廊下を、あの先生らしい細い影が横切っていくのが見えた気がした。だが、確かめに行くより先に、別の先輩が箱の底を覗き込む。 「これ、店の名前の隣に小さく番号書いてある」 「え、ほんとだ」 「順番まで決めてるのか」 部室は一気に熱を帯びた。誰かがメモの癖を思い出し、誰かが差し入れの時間を思い出す。火曜日の遅い午後、雨の日だけ少し甘いもの、作業が詰まる夕方の前。点と点がつながっていくたび、ひとつの答えが近づいてくる。 「これ、もう文化祭まで待ってられない」 部長が箱を閉じ、机を軽く叩いた。 「当日までに正体を突き止める。いや、突き止めなきゃ気が済まない」 異論は出なかった。甘いものに励まされてきたのは確かだが、ここまで揃いすぎていると、もうただのお礼では済まされない。部員たちは箱を囲み、いつになく真剣な顔で作戦会議を始める。 一番無口な顧問が、いったいどこまで知っていて、何を隠しているのか。文化祭の準備はまだ続く。けれど、その夜から、美術部の本当の焦点は展示の完成ではなくなった。差し入れの主を、どうしても見つけ出すこと。部室の空気は甘いまま、少しだけ鋭く変わっていた。