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無口な先生の差し入れ

小説ID: cmpl4rnrh000q01p4wqyuisiq

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六日目の放課後、美術部の部室は妙にそわそわしていた。差し入れの主を突き止める、と息巻いた前日から、部員たちはほとんど遊撃隊のように動いている。誰かが窓際に張りつき、誰かが廊下の足音に耳を澄まし、誰かが購買の利用時間まで調べ上げた。だが、肝心の瞬間はまだ掴めないままだった。 その日は、差し入れが置かれるとされる時刻の少し前に、三年の先輩が机の下へ潜り込んだまま待機していた。部室の空気は張りつめているのに、どこかおかしい。絵筆を持つ手より真剣な顔で机の脚を見つめる先輩に、後輩たちは必死に笑いをこらえている。 「来たら合図する」 「絶対に動くなよ」 「任せろ、息も止める」 そんな小声のやり取りの直後だった。戸の前に、あの気配がふっと寄った気がした。誰かが息を呑む。次の瞬間にはもう、机の端に紙袋が置かれている。 「今だ!」 先輩が勢いよく飛び出したが、廊下にはもう人影がない。曲がり角に、薄い白衣の裾が消えたようにも見えたが、確かめる前に足音は遠ざかってしまった。 紙袋の中には、見慣れた包装の飴と、さらに小さな封筒が一枚。そこにはいつもより少しだけ字数の多い文があった。今日は外が冷えるので温かい飲み物とどうぞ。帰り道も気をつけてください。 「逃げた……」 「いや、待って、今の足音、先生だった?」 「白衣っぽく見えたけど、購買のおばちゃんかも」 そこから部員たちの推理は、あっという間に空回りを始めた。購買で売っている袋の折り目を調べに行く者、近所の菓子店の前で同じ印を探す者、職員室のごみ箱の中身まで気にしはじめる者まで出て、部室はちょっとした探偵団の様相を呈した。しかし、集めた手がかりはどれも決定打にならない。 それでも、騒ぎは妙に楽しかった。展示の輪郭が見えてきたぶん、気持ちに余白ができたのかもしれない。床に座り込んで推理をこねくり回すうちに、誰かが笑い、誰かが飲み物を買いに立ち、気づけば作業の息抜きになっていた。 「考えすぎると分からなくなるな」 「でも、分からないのが面白いんだよ」 その夜、完成間近のパネルに最後の補強をしながら、部員たちはもう一度紙片を見返した。短い言葉、几帳面な字、置かれる絶妙な時間。答えはまだ霧の中だ。けれど、謎を追いかけるあいだに、部室はいつの間にか笑い声で満ちていた。誰かが見守ってくれている。その確信だけは、もう揺らがなかった。