ぼくの町では、人はだいたい動物のかたちをしていた。朝の通学路で会うパン屋のおばさんは大きな白い猫で、いつも眠そうに目を細めている。しっかり者の校長先生は、背筋の伸びたつるのように見えるし、すぐ笑う八木くんは、ぴょんと跳ねる子犬だ。みんな見た目は違っても、中身はふつうの近所の人たちで、ぼくはそれを何の疑いもなく受け入れていた。生まれたときからそうだったから、世界はそういうものだと思っていたのだ。 教室はいつもにぎやかで、黒板の前ではフクロウみたいな担任が、羽を広げるみたいに腕を動かしながら授業をしている。ぼくは窓際の席で、外の空を見たり、鉛筆の先を眺めたりしながら、一日をやり過ごしていた。誰かが怒れば角のある獣みたいに見えるし、照れれば耳の先が赤くなった小動物みたいになる。そんなふうに人を見分けるのは、ぼくには息をするのと同じくらい自然だった。 その日、教室の戸が静かに開いた。先生に続いて入ってきた転校生を見た瞬間、ぼくは思わず背を伸ばした。初めて見たのだ。誰でもない、ただの人の姿をした子を。肩までの髪も、まっすぐな背中も、細い指先も、どこにも動物の影がなかった。ぼくの目には、あの子だけが、ぼくと同じ形に見えた。 教室の空気が少しだけ止まった気がした。転校生は小さく会釈して、名前を名乗った。声は落ち着いていて、でもどこか周りを探るような響きがあった。席に案内されるあいだ、あの子は窓の外を一度見て、それからすぐ視線を戻した。その仕草が、知らない場所に放り込まれた人のものに思えて、ぼくは胸の奥がそわそわした。 授業が始まっても、ぼくは何度も横目でその子を見た。ほかの子たちがいつも通り、鳥や兎や犬みたいに騒ぐなかで、転校生だけが静かに座っている。まるで、ぼくの知らない扉が突然開いたみたいだった。世界が少しだけずれた音を立てた気がして、ぼくは初めて、自分の見ているものに名前のつけられない違和感を覚えた。
見えていた町の秘密
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