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百年後の転校生は独りじゃない

小説ID: cmu1dduu0002k01mzp5v4k32m

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楢ノ沢は、地図で見るよりずっと山だった。祖母の葬儀のために帰ってきた結人は、黒い制服のまま坂道を上り下りし、すでに靴の中で小石と友情を育んでいた。 「都会の子は歩かんから、体力が余っとるじゃろ」 最初にそう言ったのは、受付前で湯飲みを並べていた近所のキヨだった。理屈の向きが逆ではないかと思ったが、結人が口を開くより早く、香典帳を渡された。受付を終えると薪を運ばされ、薪を運び終えると座布団を増やし、座布団を増やすと今度は迷子の犬を探す係になった。 「俺、孫なんですけど」 「だから頼みやすい」 村の論理は、山道より急だった。 祖母の家に戻った夕方、結人はようやく遺品整理を許された。古い箪笥の引き出しには、色褪せた手ぬぐい、薬の包み紙、誰のものか分からない鍵が二十本ばかり入っている。祖母は物を捨てない人だった。けれど、何でも残す人にしては、進学祝いの腕時計だけはなかった。来月、町の高校へ進む結人に渡すつもりだったのかもしれない。 胸の奥が、まだ決まっていない制服の襟元みたいに落ち着かなかった。知らない町、知らない教室。そこで自分の席が見つかる保証など、入学案内のどこにも書いていない。 引き出しの奥で、小さな弁当箱が指先に触れた。角の丸いアルミの箱で、蓋には細い字で宛名が貼られている。 百年前の転校生へ。 結人は二度読みした。百年前なら、届け先は転校どころか、とっくに卒業している。いや、卒業というより歴史の教科書側の人だ。 弁当箱の下には、祖母の手帳があった。最後のページだけが開かれており、震えた字で一行だけ記されている。 結人へ。これを、ちゃんと帰しておくれ。 誰に、とは書かれていなかった。窓の外では、山の向こうへ沈みかけた日が、楢ノ沢の屋根を赤く染めていた。結人は弁当箱を膝に置いたまま、しばらく動けなかった。 翌朝には戻るつもりだった。けれど祖母の最後の頼みを、宛先不明として放っておくほど、結人は器用に大人ではなかった。まずは村で、百年前の転校生を知っている人を探すことにした。百歳を超えた転校生が見つかれば、それはそれで大事件だった。

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