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百年後の転校生は独りじゃない

小説ID: cmu1dduu0002k01mzp5v4k32m

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結人が最初に聞き込みをした相手は、祖母の家の向かいで鹿肉を干していた源三だった。白い髭は顎から胸まで続き、腰には山刀、足元には猫が三匹いた。猫たちは源三より愛想がよく、結人を見るなり順番に伸びをした。 「源三さん、これ、知りませんか」 弁当箱を差し出すと、源三の手がぴたりと止まった。けれど次の瞬間には、干し肉の向きを直しながら鼻を鳴らす。 「知らん」 「まだ箱をちゃんと見せてません」 「見なくても分かる。知らん」 ずいぶん高性能な拒否だった。 結人は蓋の宛名を読んだ。百年前の転校生へ。源三は今度こそ横目を向けたが、やはり答えない。代わりに猫の一匹を抱き上げ、結人へ背中を向けた。 「帰れ。葬式明けから、死んだ人間の荷物をひっくり返すもんじゃない」 「祖母に頼まれたんです。ちゃんと帰してくれって」 その言葉に、源三の背中が少しだけ縮んだ。猫が迷惑そうに耳を伏せる。 「帰す先なんて、もうねえよ」 「じゃあ、百年前の転校生って誰なんですか」 「知らんと言ったろ」 源三は弁当箱を奪うように受け取り、蓋の留め具を親指で撫でた。金具には、小さな杉の葉を三枚並べたような刻印がある。結人は今まで、傷かと思っていた。 「それは昔の学校の印だ」 言ってから、源三はしまったという顔をした。山で熊と鉢合わせたら、たぶんこんな顔をするのだろうと結人は思った。 「学校?」 「聞こえんかったか。帰れ」 「どこの学校ですか」 「耳だけ都会育ちか」 源三は弁当箱を結人へ押し返した。その指はごつごつしていたが、箱を置く手つきだけは妙に丁寧だった。 「沢を二つ越えた先に、昔ゃ分校があった。今は屋根も落ちとる。だが、行くな。山は、よそ者が道を覚える前に腹を立てる」 「源三さんも、俺を追い返す前にいろいろ漏らしてますよ」 源三は顔をしかめた。 「おまえの祖母に似とる。余計なところだけ賢い」 それだけ言うと、干し肉の陰へ引っ込んだ。猫たちは結人の足元に残り、まるで次の行き先を知っている案内人のように、揃って山の方を見ていた。 結人は弁当箱の杉の葉の印を握りしめた。百年前の転校生は、どうやら山奥の、なくなった学校へ続いているらしい。靴の中の小石が、また少し増えそうだった。

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