数日後、楢ノ沢の小さな資料室に、弁当箱と交換日記の展示ができた。展示といっても、古い机の上に白い布を敷き、祖母の写真と説明書きを添えたものだ。けれど村の人たちは朝から代わる代わる訪れ、箱を見ては、自分の名前や親の名前を日記の中に探した。 「棚が傾いとる」 源三は開口一番そう言って、誰にも頼まれないまま工具箱を広げた。棚は確かに少し傾いていたが、源三が直したあとは、なぜか反対側がほんの少し傾いた。 「味がある」 紬が言うと、源三は睨んだ。 「展示棚に味はいらん」 紬は資料室の隅から配信を始めた。祖母が町で送った鉛筆、子供たちが描いた山の絵、駅前で撮られた見送りの写真。村の人々は最初こそ照れていたが、紬に昔話を引き出されると、祖母が荷物を持ちすぎて汽車に乗り遅れかけたことや、源三が菓子を半分しか食べなかったことまで、楽しそうに話した。 「半分は澄江にやっただけだ」 「残り半分は?」 「食った」 配信の向こうで紬が笑い、資料室にも笑いが広がった。噂はいつの間にか、誰かを傷つけるための話ではなく、祖母が怖がりながらも歩いた道を語る話へ変わっていた。 出発の日、結人は弁当箱の前に最後の一礼をした。箱は資料室に残る。けれど最後の頁に書いた言葉は、自分の胸にしまって持っていける。 停留所には、キヨも源三も紬もいた。源三は見送りに来ただけだと言いながら、結人の鞄へ干し肉を押し込んだ。 「町の飯は信用ならん」 「それ、祖母も言ってました」 「なら覚えとけ」 バスが動き出す。窓の外で紬がカメラを振り、源三は手を上げる代わりに猫を抱き上げた。猫は迷惑そうだった。 山を離れ、町へ続く道を見ながら、結人は思った。居場所は、誰かが空けてくれる席を待つだけのものではない。怖くても声をかけ、言葉を運び、また帰れる場所を残していく。そのたびに、自分の手で少しずつ作れるものだ。 百年後の転校生として、結人は新しい町へ向かった。
百年後の転校生は独りじゃない
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山間の集落・楢ノ沢へ祖母の葬儀で来た素朴な高校生・結人は、都会育ちを理由に何かと雑用を任される。祖母が残した「百年前の転校生」宛ての弁当箱を届け、進学後の居場所を見つけるのが目的だ。口の悪い猟師、動画配信に夢中な同級生、祖父の古い日記が障害となる。弁当箱の底にある交換日記を、祖母・母・結人の三世代で読み継ぐ仕掛けで、祖母が村から追われたのではなく自ら町へ出て皆を守ったと分かる、温かくユーモラスな物語を書け。
