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追憶端末、最初の挨拶

小説ID: cmu2stum1002z01mzfcb0mwpe

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直人は配送記録を開き直した。五年前から今日までの評価欄には、遅延を減らした順路の提案、独居世帯への配慮、同僚の応援回数といった項目が並んでいる。どれも空白だった。 代わりに、契約前から続く自分の記録が残っていた。指定外の依頼は断る。連絡は要件のみ。休憩は一人で取る。真壁が手伝いを求めた日の備考には、担当外です、と短く記されている。 家族の古いやり取りも同じだった。父の言葉はぶっきらぼうで、母は心配を質問の形にしかできず、妹は冗談で沈黙を埋めようとしていた。誰も上手ではなかった。だが直人だけが、下手な差し出し方をすべて拒絶と決めて、先に背を向けていた。 誰にも愛されなかったのではない。愛されるために必要な、ほんの少しの隙間を、自分で塞いできたのだ。 皮肉だった。人に気を配る自分は借り物の記録から始まり、その自分が得た関係もまた、契約を止めた世界にはない。それでも、雨の平屋の前で待った数十秒まで嘘だったとは思えなかった。 扉が開き、老人が細めた目で直人を見る。 「どちらさんだい」 直人は喉の奥が固くなるのを感じた。以前の自分なら、伝票だけを差し出して終えていただろう。以前の自分の真似をしても、何も始まらない。 「配送の直人です」 名乗ってから、続きが見つからない。雨音が庇を叩く。老人は待っているのではなく、ただ聞こえる言葉を待っている。 「今日から、この辺を回ります。濡れない置き場所があったら、教えてください」 言葉はぎこちなく、気の利いたものではなかった。老人はすぐには答えず、直人の顔を見た。それから植木鉢の脇を指した。 「そこなら、少しはましだ」 直人は頷いた。 「覚えます」 約束にするには小さすぎる言葉だった。それでも直人は、荷物を抱えたまま次の住所へ向かった。誰かが待ってくれる保証はない。自分が変われる保証もない。 けれど次に扉の前へ立つとき、名乗ることだけは、自分で選べると思った。

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ユーザープロット

近未来の日本で、孤独な配送員・直人は、他人の記憶を短時間だけ体験できる福利厚生端末を使う。端末を起動するたび一日ずつ過去へ戻る直人は、かつて自分が家族の記憶を売って借金を返し、別人の人格履歴を移植した事実を知る。本当の自分を確かめるため、記憶売買会社の契約を過去で止めようとするが、乾いた生活描写の中、周囲は現在の直人を必要としている。結末は契約を止めたことで「本物」の直人が戻るが、彼は誰にも愛されない人物だったという皮肉にせよ。