昨日の日付のまま、直人は同じ便を走らせた。雨はまだ降り出しておらず、道路脇の植え込みには乾いた紙片が引っかかっていた。昨日のはずの一日をなぞる感覚は、靴底に薄い膜が貼りつくように気味が悪かった。 最後の荷物は、駅前の集合住宅にある配送ロッカー宛てだった。画面には受取人名だけが表示され、暗証番号は伝票の封を切らなければ確認できない。直人はロッカーの前に立った瞬間、ためらわずに六桁を押していた。 四〇七二一九。 扉が開き、冷気とともに小さな箱が現れた。直人は指を見つめた。番号を知る理由がない。伝票を開くと、そこには同じ数字が印字されている。以前にも配達したのだろうかと思ったが、端末の配送履歴にこの部屋番号はなかった。 受領処理を終えたあと、直人はロッカーの利用時刻を控えた。十六時四十分。追憶共有端末から戻った時刻と、ぴたりと重なっていた。 センターへ戻ると、白い筐体の赤い警告灯は消えていた。報告用の画面を開こうとして、直人は指を止める。今度は自分の意思で、社員証を読み取り部へかざした。 淡い光の向こうで、誰かがアルバムを閉じる音がした。見えたのは記憶ではなく、黒い画面だった。次の瞬間、壁の時計はまた一日分だけ巻き戻っていた。 帰宅した直人は、玄関の照明もつけずに居間へ入った。棚の中央だけ、埃の色が四角く違っていた。写真立てを置いていた跡だ。壁にも、外された額縁の金具が二つ残っている。 家族写真だったのだと、頭ではわかる。けれど誰と写っていたのか、どこで撮ったのかが浮かばない。胸の奥に、名前のない空洞だけがある。 直人は住宅管理の保管記録を開いた。入居時に預けた室内写真、家財の登録、緊急連絡先。そのどれにも棚の写真立ては記載されていない。削除履歴もなく、最初から存在しなかったように整えられていた。 それでも棚には、額縁の脚が残した二本の薄い線があった。直人はそこへ指先を置いた。冷たい木目の向こうに、自分が忘れた誰かの顔がある気がした。
追憶端末、最初の挨拶
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