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追憶端末、最初の挨拶

小説ID: cmu2stum1002z01mzfcb0mwpe

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目を開けると、配送センターの休憩室は朝の光に満ちていた。白い筐体は消え、壁際には古い給湯器だけがある。端末の日付は、契約を撤回してから五年後を示していた。 直人は自宅へ帰り、棚の前に立った。写真立てには、父の不器用な笑顔と、母、妹、自分が並んでいた。食卓の湯気も、妹がよく片方の靴下をなくしたことも思い出せる。胸の空洞は埋まっていたが、代わりに見覚えのない静けさが残った。 翌日、平屋へ荷物を届けた。以前なら植木鉢の脇へ置き、扉の向こうで待ったはずの家だった。直人は呼鈴を押した。出てきた老人は伝票を受け取り、訝しげに言った。 「初めて見る顔だね」 耳の遠い住人の扉にも、筆談用紙の場所を示す板はなかった。管理人は事務的に受領印を求め、真壁は積み残しを抱えながら、直人へ声をかけず別の同僚を頼った。 「直人さんは、こういうの苦手でしょう」 悪意のない言い方だった。けれど、その一言でわかった。消えたのは提供者の判断記録だけではない。その記録を足場にして、直人が繰り返した会話や待つ時間や、相手の都合を考える習慣も、この世界では最初から育っていない。配送先の人々が忘れたのではない。彼らに親しげな直人は、契約の先にしか存在しなかった。 帰宅後、母から届いた夕食の誘いを開いた。以前の自分なら、返事をせず画面を伏せたのだろう。直人は長い文章を打ち、消した。謝る言葉も、会いたい理由も、まだ自分の中で整わない。 次の配達で、平屋の前に立った。雨が降り始めている。直人は荷物を抱え直し、呼鈴を一度だけ押した。 「荷物です。濡れないところ、どこに置けばいいですか」 扉の内側で、ゆっくりと足音がした。直人は急かさず待った。そうする理由を、もう誰かの履歴に尋ねることはできない。それでも待つと決めたのは、自分だった。

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