端末の光から戻ると、表示された日付は五年前の十一月十八日だった。直人は配送車をセンター脇に止め、記録の空白になっていた二時間を埋めるように旧支店へ向かった。 記憶管理会社の受付は、現在の簡素な端末窓口と違い、薄い灰色の壁と対面用の机を残していた。予約名を告げると、若い担当者が奥から書類の束を抱えて現れた。 「生活再建支援のご面談ですね。まず、保全対象の確認をいたします」 机上には青い付箋が三枚、書類の端に順番に貼られていた。一枚目には家族関連記録の抽出、二枚目には譲渡先保全庫への移送、三枚目には人格履歴補助の導入確認。直人は三枚目を見つめた。 「これは別のサービスじゃないんですか」 担当者は少し意外そうに目を上げた。「記憶をお預かりした後の生活に支障が出ないよう、同一契約内で補助を入れます。対人判断や日常の選択を滑らかにするものです。必要な期間だけですから」 必要な期間。その言葉に、直人は自分が配達先で見せる細かな気遣いを思った。留守の高齢者宅では日当たりを避けて荷物を置き、急ぐ客には最短の受取方法を先回りして伝える。いつから覚えたのか、考えたこともなかった。 書類の余白には、当時の自分の筆跡で、家賃三か月分、と走り書きされていた。その下には、面会希望なし、という短い記入欄がある。家族の記憶だけを売ったのではない。そこから空いた部分へ、誰かの判断の癖を受け入れる手続きを、同じ日に進めていた。 担当者が席を外した隙に、直人は青い付箋の順を写し取った。三枚目だけに、小さく最終同意後とある。譲渡と導入は、署名の前なら止められる。だが、時計は四時三十五分を指していた。面談の案内に記された時刻まで、あと五分しかなかった。
追憶端末、最初の挨拶
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