閉鎖予定日は、再生準備開始の日へ書き換えられた。 一週間後、北稜アーカイブの会議室で、私は姉のノートを開いていた。七箱の資料をただ並べる展示にはしない。語り手の名前を伏せるべき記録、背景を添えて公開する儀礼、火災後に失われかけた調査の経緯。読む人が怖さだけでなく、町の人々が何を守ろうとしてきたかを受け取れるよう、展示案の紙へ順に書き込んだ。 真壁さんは保存計画を整え、西田さんは古い記録を検索できる形へ移している。理事も外部評価者との日程を決め、以前より少ない言葉で、必要な手続きを確認するようになった。 「説明が平易すぎるかもしれません」 私が案を見せると、榊さんは首を振った。 「読める形にする、と君は言った。難しくすることが価値ではない」 十年ぶりの職員証を首から下げた榊さんは、端末の前でも以前ほど険しい顔をしなくなった。西田さんに操作を教わり、覚えたての送信機能で全員へ同じ資料を二度送ったこともある。それでも、昼休みには当時の同僚の記録を読み、名前を見つけるたび、静かにその空白を埋め始めていた。 夕方、展示室の整理を終えた私たちは、面が入っていた収蔵箱を確認した。面は新しい保管台に移したため、箱は空のはずだった。 蓋を開けると、底に白いカードが一枚あった。 次の交換者へ。 丸みのある文字は、間違いなく私の筆跡だった。 「書いた覚えは?」 榊さんの問いに、私は首を振った。カードの裏には日付もない。ただ、朱色の細い線が一本、面の額と同じように引かれている。 榊さんは箱を閉じず、しばらくカードを見つめていた。 「面は終わらせるためにあるのではないのかもしれない」 「次に守る人へ、渡すために」 私たちは同時に言って、少し笑った。 展示室の窓から、山の稜線が夕暮れに沈んでいく。アーカイブはまだ不完全で、整理されていない記録も、聞かれていない声も残っている。 私はカードを姉のノートへ挟んだ。次の頁には、まだ何も書かれていない。 けれどその余白は、もう失われた時間の跡ではなかった。
北稜アーカイブ、時を継ぐ面
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閉鎖された民俗研究施設「北稜アーカイブ」に、資料搬出のため赴任した新人学芸員・紬を主人公に、明るく軽快な入れ替わりミステリーを書け。紬は展示用の古い面をかぶった夜、十年前に施設で消息を絶った前任学芸員・榊の身体と意識を入れ替える。榊の身体で、火災で失った姉の調査ノートを探す紬と、紬の身体で現代の職場に悪戦苦闘する榊は、施設閉鎖を急ぐ理事と自動廃棄装置を障害に、封印資料を救おうとする。喪失を抱えた二人が未来へ踏み出して元に戻った直後、空の収蔵箱から紬の筆跡で「次の交換者へ」と書かれたカードが出る結末にせよ。
