白く変わった表示灯の下で、制御盤には安全停止ではなく、手動確認待ちの文字が浮かんでいた。停止したのは移送ベルトだけで、地下の粉砕炉は九十秒後に自動排出を始める。私は榊の身体で、非常停止の案内矢印に従って階段を駆け下りた。 「地下四層の手動装置です」 耳元の通信機へ告げると、榊は私の声で答えた。 「こちらは理事室前だ。真壁さんと西田さんもいる。理事は、停止は現場判断の逸脱だと言っている」 重い防火扉の向こうでは、古い歯車が低く唸っていた。手動停止装置は、赤い覆いのかかった大きなレバーだった。しかし鍵穴の横には、搬出目録の最終確認番号を入れなければ作動しない、と刻まれている。 私は端末を開いた。二四八一から二四八七までの欠番を入力しても、画面は拒絶した。そこで姉のノートにあった、七つの火災時刻を思い出す。番号ではなく、資料が保護登録された順序。時刻を並べると、画面は管理記録を開いた。 そこには、七箱を未整理資料として廃棄系統へ戻した指示が残っていた。決裁者は理事。けれど添付必須の保存評価書も、異議申立期間を短縮する承認も空欄だった。 「榊さん、出ました。理事は評価前の資料を廃棄対象へ戻している。しかも前倒しの決裁がありません」 通信の向こうで、一瞬の沈黙があった。 「聞こえましたね、理事」 榊の声が硬く響く。「あなたは経費削減のため、再評価費を計上したまま、その再評価を行わなかった。七箱を消せば、欠番も火災後の処理も説明不要になると思った」 理事の返答は、かすれていた。 「未確認の記録に、施設全体を止める価値はない」 「あります」 私はレバーの覆いを上げた。「資料の価値を決める前に捨てないための手続きです。姉は、読める形にして渡せと書きました」 端末へ真壁の保全承認が届く。西田が理事室の端末から、欠けていた決裁履歴を全職員へ共有したらしい。確認番号の欄が緑に変わった。 私は榊の手でレバーを引いた。 地下を揺らしていた唸りが消え、炉へ続く扉がゆっくり閉じた。直後、上階の通信機から拍手ではなく、長く吐き出される息が聞こえた。 「止まりました」 榊が言う。 私は七箱の写真を見つめた。守るだけの扉は開いた。これからは、誰かが読める場所まで運ばなければならない。
北稜アーカイブ、時を継ぐ面
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