予告音が二度鳴り、廊下の赤灯が回り始めた。 私は封印庫を出て、廃棄装置の制御盤へ走った。画面には未整理資料移送、起動まで三分と表示されている。停止を選んでも、管理者承認が必要だった。 「理事権限だけではありません」 追いついた榊が、私の端末を掲げた。「保存担当の緊急保全承認も使える。真壁さんに送った写真、もう見ている」 ほどなく真壁から認証コードが届いた。けれど制御盤は、対象資料の危険性評価を入力しなければ停止を受け付けない。封印資料をただ貴重だと訴えるだけでは足りなかった。 私は姉のノートの断片を床に広げた。民謡、聞き取り記録、火災後の配置図。それぞれ別の頁だと思っていた余白の記号が、七箱の番号に対応している。姉は資料を封じる方法ではなく、開く順序を書き残していた。 一箱目は地域史として公開。二箱目は語り手の匿名を守って閲覧制限。三箱目は災いを招くとされた儀礼の記録で、手順を省略し、背景と検証結果を注釈する。怖さだけを切り取らず、誰が何を恐れ、どう暮らしを守ったかを添える。 「危険な伝承を消さずに、危険でない形へ変える分類法です」 私が入力すると、榊は静かにノートを見つめた。 「君の姉は、私が消えたあとも調べていたんだな」 「姉は、途中で町を去りました」 「去ったから終わったわけじゃない。私が残した録音も、彼女の記録も、次に読む者を守ろうとしている」 榊の声には、十年分の悔いがあった。 「私は資料のために消えたと思っていた。だが、帰るための条件を、自分一人で抱え込んでいたんだ」 起動まで一分。榊は理事室から取得した閉鎖計画の控えを転送した。廃棄前倒しの根拠欄は空白で、予算削減額には未整理資料の再評価費まで二重に計上されている。保存を検討する手続きそのものを省けば、閉鎖が安く見える仕組みだった。 私は分類表とともにその控えを真壁と西田へ送った。榊は廃棄室の非常停止を押さえ、私は保全承認を確定する。 低い唸りが途中で途切れた。移送ベルトは七箱の手前で止まり、赤灯が白く変わる。 「紬」 私の名を呼ぶ榊は、私の顔でまっすぐ笑った。 「真実は君に託す。私の失踪も、ここに隠されたことも、隠すためではなく公開するために」 私は頷いた。姉のノートを閉じず、次の頁へ進めるために。
北稜アーカイブ、時を継ぐ面
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