錆びた鍵を握って旧民俗庫へ向かう途中、館内放送が私たちを呼び止めた。 「未整理資料は三日後、午前九時より自動廃棄装置へ移送します」 理事の乾いた声は、予算と保管費用を繰り返した。異議は本日中に文書で提出すること。けれど、欠番の理由を示せなければ、封印資料まで不要物の箱へ入れられる。 「三日で紙の山を調べろというのか」 私の身体の榊が端末を睨んだ。 「検索機能を使えば」 「紙には埃が積もるだけで、勝手に答えは出さん」 「十年前の人は、検索を魔法か何かだと思ってます?」 言い返しながらも、私は姉のノートを開いた。火災後に救出された品の記録、その余白に、子供向けの民謡が書かれている。 朝霧、山の名、谷の戸、七つの灯。 一見ただの歌詞だったが、語順の横に姉の細い字で、逆では開かぬ、とあった。 旧民俗庫の最奥には、番号札のない棚があった。鍵穴へ二四八七の鍵を差しても回らない。榊は棚板の縁をなぞり、焼け焦げた木目の間に四つの小さな印を見つけた。霧、山、戸、灯。 「歌の順番だ」 榊が霧、山、戸、灯の順に押すと、鈍い音とともに棚が半歩だけ前へ滑った。背面に隠れていた薄い引き戸から、煤けた筒が現れる。 中には火災後に封じられた資料群の配置図があった。二四八一から二四八七まで、七つの箱は旧民俗庫ではなく、地下三層の壁の向こうに記されている。その脇には、赤字で廃棄対象外、再調査要とある。 「理事の目録には、これがない」 私が呟くと、榊は配置図の端を指した。記入者は姉。そして追記の筆跡は、十年前の榊のものだった。 封印庫、開扉は継ぐ者二人。 面が私たちを替えた理由は、少しずつ形になり始めていた。
北稜アーカイブ、時を継ぐ面
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