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北稜アーカイブ、時を継ぐ面

小説ID: cmu735ax1000h01mzy4k5sdmn

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「その時計、止まっていませんか」 背後から聞こえた声に、私は椅子ごと振り返った。資料室の入口に立っていたのは、私自身の身体だった。けれど、紬なら寝癖を押さえながら慌てて謝るはずの場面で、その顔は腕を組み、周囲を値踏みするように眺めている。 「あなたは誰です」 問いながら、私は榊の声で息をのんだ。 「それを確認したい。君は、面の内側に貼られた紙片をどこまで読んだ」 「守る者、替わる者」 私が答えると、私の顔をした相手は目を伏せた。 「残りの文字は、引き継ぐ者。十年前には、まだ読めた」 相手は自分を榊だと名乗った。信じるには荒唐無稽だったが、榊は机の奥から青い帳面を取り出し、最後の頁を開いた。そこには、昨日私が落とした調査票へ追記した、丸みのある自分の筆跡があった。保留箱、第二列、鍵は錆びている。私しか書いていない文だ。 「では、あなたが榊だという証拠は」 榊は少し考え、収蔵庫の扉へ視線を向けた。 「地下三層、旧民俗庫の合言葉。記録には残さなかった。朝霧は何を隠す」 「山の名を」 反射的に答えた瞬間、私の胸の奥に覚えのない安堵が走った。昨夜、鍵束の札で見たことすらない扉だった。榊は続けた。 「十年前、君の姉が火災のあとに残した調査ノートを読んでいた。焼けた展示室から救い出された資料の中に、この面と封印資料についての記録があったんだ」 姉の話になると、喉が固くなった。姉は研究の途中で町を去り、ノートだけを私に預けた。まだ荷ほどきもしていない鞄の底にある。 「封印資料は、どこに」 「追っている最中に面を試した。気づけば十年後で、君の身体にいた」 榊は苦く笑った。「失踪したのではない。少なくとも、私の意識はここにいる」 窓の外では、搬出業者の車が坂を上ってきた。閉鎖まで二十八日。元に戻る方法を探すにも、資料が失われれば手掛かりは消える。 私は榊の大きな手で青い帳面を閉じた。 「姉のノートを探します。あなたは私として、今日の搬出判定を止めてください」 「新人らしく無茶を言う」 「十年前の人に言われたくありません」 榊は、私の顔で初めて少し笑った。私たちは鍵束を分け、面が待つ展示室へ向かった。

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