chapalette Logo

北稜アーカイブ、時を継ぐ面

小説ID: cmu735ax1000h01mzy4k5sdmn

5 / 10

配置図を抱えたまま戻った私たちは、その日の午後に予定されていた職員向けの資料紹介会へ目をつけた。閉鎖前の引き継ぎとして、保留資料を十分ずつ説明するだけの小さな会だった。 「封印庫の話を正面から出せば、理事に止められる」 榊は私の顔で言った。 「なら、廃棄対象外と書かれた七箱の根拠だけ見てもらいましょう」 私は榊の身体で、火災後の配置図、姉の記録、榊の手帳を机に並べた。紹介会には保存担当の真壁と、データ整理を任されている西田が来た。二人とも、欠番が統合済みとだけ処理されている画面を見て、すぐに顔色を変えた。 「統合なら移管先と決裁番号が残るはずです」 西田は端末を操作し、削除履歴の時刻を示した。七件は十年前の火災直後に保護登録され、その翌日、理事室の権限で閲覧制限へ変更されていた。廃棄候補へ戻されたのは、わずか二週間前だった。 真壁は配置図の赤字を指で追った。 「再調査要は、保存評価が未確定という意味です。不要物とは正反対ですよ」 榊は頷いたが、私へ小声で尋ねた。 「保存評価とは、要するに捨てるなという判定か」 「大体は。でも書類がないと、捨てない理由になりません」 「面倒な時代だ」 「記録を守る人が言わないでください」 紹介会の記録には、二人の署名と、七箱の確認を求める意見が残った。協力者を得た安堵は長く続かなかった。終了直後、理事が記録を持って現れた。 「これは資料紹介であって、閉鎖手続きを覆す審査ではない」 理事は配置図を一瞥し、未登録の複写だと切り捨てた。そして通知書を机へ置く。 「自動廃棄装置の試運転は明日午前九時に前倒しします。混乱を増やす記録は、これ以上作らないように」 理事が去ったあと、室内には端末の冷たい駆動音だけが残った。明日までに封印庫を開き、七箱そのものを示さなければならない。榊は錆びた鍵を握り直した。 「継ぐ者二人、か。ようやく試されるらしい」

Share:

LINE