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谷の影が呼ぶ真実とは

小説ID: cmu8illhe000w01mz0aj67rke

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紬が炭窯へ駆け込むと、源蔵は窯の口を土で塞ぐところだった。夕暮れの山肌には祭りの準備の太鼓が、まだ遠く、鈍く響いている。 「その布を見せな」 紬が焦げた布片を差し出すと、源蔵は火箸で灰をかき分けた。窯の隅から、半ば焼けた細い縄と、松脂の染みた木片が現れる。 「火事の翌朝、祠の脇に落ちとったもんじゃ。黙って持ち帰った。村長が、よそ者の荷から火打ち石が出たと言い出したからな」 「蒼真さんがやったの?」 老人はすぐにはうなずかなかった。炭の赤い熱が、その皺だらけの顔を照らした。 「あの晩、蒼真は祠の灯火を広場へ移そうとした。祭りの松明へ火を分ければ、皆が驚くような明かりになるとでも思ったんじゃろう。だが、灯火は谷を鎮めるため、祠から動かしてはならんものだ」 源蔵は木片を指した。 「雨を嫌って松脂を足し、鈴を外して灯火の縄に結んだ。そこへ谷から強い風が吹いた。火の粉は祠の屋根へ散った。蒼真は慌てて逃げ、坂を上がる旅人が火を見つけた。旅人は鈴を拾い、消そうとしたんじゃ」 紬の胸で、あの濡れた鈴が小さく震えた気がした。 「だったら、どうして皆……」 「皆、見たものを半分ずつ隠したからじゃ」 源蔵の声は窯の奥より低かった。 「葉月は蒼真が火元にいたことを見た。村長は息子の手に松脂が付いていたことを知った。見回りの者は旅人が火を消していたのを見た。それぞれが村のため、家族のためと言うて口を閉ざした。責める先を一人に決めれば、明日も普段どおり来ると思ったんじゃろう」 紬は布片を握り直した。蒼真だけを広場で糾弾すればいいのだと思っていた。けれど、その背中を押して旅人へ罪を投げた手は、村じゅうにあった。 「谷を鎮めるには、蒼真さんが認めればいい?」 「それだけでは足りん。沈黙は、最初に嘘をついた者だけのものではない。知っていて目を伏せた者の影にも、谷は手を伸ばす」 窯の口から漏れた煙が、夕闇へ細くのぼった。その影は風に引かれ、谷の方角へ長く伸びていた。

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