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谷の影が呼ぶ真実とは

小説ID: cmu8illhe000w01mz0aj67rke

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夜の帳が広場を包むころ、谷からあふれた霧は松明の火を青く細らせた。祭りの太鼓はいつの間にか止み、櫓の下には、村人たちの影だけが水に浸かった草のように長く揺れていた。 紬は人の輪を抜け、櫓の前へ出た。胸の奥は怖さで固まっていたが、掌の鈴は冷たく、確かな重みを返してくる。 「この人は、祠に火をつけていません」 紬の声は震えた。それでも広場の隅まで届いた。 布をほどくと、濡れた鈴の雨紋に残る琥珀色の松脂が、松明に照らされて光った。続いて焦げた紺の布片を掲げる。鷺の紋を見た人々が息をのみ、蒼真は顔を伏せた。 「源蔵さんは、祠のそばで松脂のついた縄と木片を見つけました。旅人さんは火を消そうとして鈴を拾ったんです。火を起こしたのは、蒼真さんです」 源蔵が群れの後ろから進み出た。背を丸めながらも、声は炭窯の石のように硬かった。 「わしは火事の翌朝、証になるものを拾った。村長がよそ者に罪を決めるのを見て、わしも黙った。炭焼きの商いまで疑われるのが怖かったからじゃ」 村長は一歩踏み出し、霧を払うように袖を振った。 「子供の言葉と、年寄りの憶測で祭りを壊す気か。よそ者が谷を乱したのは確かだ。村の評判を落とせば、皆が困る」 その言葉に、村長の影が石畳を這い、彼の足首へ黒い縄のように絡みついた。村長は顔色を変えた。 「違うよ」 葉月が供え台のそばで言った。割れた皿の欠片を踏み、ゆっくり前へ出る。涙はなかった。けれど唇が白くなるほど結ばれていた。 「火事の夜、私は蒼真さんが祠から走り去るのを見た。手には松脂がついていた。蒼真さんのお父さんに頼まれて、あの子の将来のためだと思って黙った」 葉月の影が震え、谷へ伸びていた先を、少しずつ自分の足元へ戻していく。 蒼真は父の袖から手を離した。頬には霧の雫が流れている。 「俺がやった」 細い声だった。 「灯火を移せば、祭りが立派になると思った。鈴を外して、火が消えないように松脂を使った。風が吹いて、怖くなって逃げた。旅人が消してくれたのも見たのに……父さんが黙れと言ったから」 蒼真が頭を下げると、広場じゅうの影が大きく波打った。谷から鈴の音が鳴った。紬の持つ鈴も、初めて澄んだ音を返した。 けれど霧は退かなかった。むしろ谷口から、誰かを探すように白い腕を伸ばしてきた。その先にある紬の家の方角で、ひとつの影が、深く揺れた。

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