舞台袖の扉は、半ば開いたまま止まっていた。岸本が懐中電灯を差し入れると、奥には大道具を収める狭い倉庫があった。積まれた箱の表面に、演劇部と書かれた古い札が貼られている。 真琴は足元に落ちた紙片を拾った。湿気を吸った申請書の控えで、端には自分の氏名と進学先が記されていた。添付確認欄には、一箇所だけ空白がある。所得を証明する書類の受領日。その横に、赤い印で期限後と押されていた。 「これ、どういうことですか」 玲子が紙を受け取る手は震えていた。岸本は答えず、懐中電灯の光を床へ落とした。 「学校から、連絡は来ていませんでした」 「来ていたはずです」 岸本は絞り出すように言った。「けれど、書類がそろう見込みはあった。真琴さんは、ずっと不安の中で頑張っていた。期限のことまで伝えたら、諦めると思ったんです。確認が取れてから報告しようと」 「それで、間に合わなかったら」 玲子の声に責める鋭さはなかった。それがかえって、岸本の顔を強張らせた。 「私が何とかするつもりでした」 真琴は控えを見つめた。自分を守るために伏せられた事実が、誰かの手からこぼれた時間の上に置かれている気がした。 「湊くんも、同じように待たされたんですか」 岸本は目を閉じた。 「湊はあの日、相談室の前にいました。家のことも、進路も、もう一度話したいと。けれど私は、この申請の確認を優先した。十分だけ待ってくれと言ったまま、戻れなかった」 榊が倉庫の壁にもたれた。「私は報告を受けた後、面談の機会を設けるよう指示した。それで足りると考えた」 「足りなかったんです」 真琴の声は静かだった。「私のためでも、誰かを後回しにしていい理由にはならない」 玲子は娘の背を撫で、それから岸本へ向き直った。「先生を責めれば、この子が進めるわけではない。でも、隠したまま進ませるのは違う」 倉庫の棚の最下段に、もう一枚の紙があった。湊の名前が記された相談記録。その余白には、岸本の筆跡で短く書かれていた。 明日、必ず話す。 その約束の日付は、湊が学校へ来なくなった翌日だった。
卒業式に席は足りるか
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