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眠れる探偵こそ王だ

小説ID: cmubdgtjf001q01mzcsa72ky2

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その夜、ラズは侍女の目を盗み、北の離宮の温室へ向かった。王妃が好んだ場所だという。厚い硝子の屋根の下には、季節外れの白い百合と薬草が並び、中央には細い水路が走っていた。夜のあいだはただ湿った土の匂いしかしない。 祈りの間から運んだ小さな涙石を水路の縁へ置くと、石は夜明け前の闇に青い息を吐いた。光が硝子を透け、葉ごとに結んだ露を照らす。ラズは息を止めた。 露の粒が、葉脈に沿って文字の形に集まっていた。 王冠の傷は見よ、印は熱でなく月で起きる。 さらに隣の薬草棚では、露が矢印を描いている。白百合、苦草、銀葉、井戸。植物の並びと矢印は、温室から北壁の古い排水路へ続く順路を示していた。 「避難経路だな」 王妃は誰かに追われたとき、この離宮から人知れず抜ける道を残した。そして王冠についても、修復印を確かめる術を記している。 だが月で起きる、という言葉だけでは足りない。ラズは露の文字を紙へ写し、涙石に触れた。青い光の向こうで、眠気を堪えるようなアシルの声がした。 『こちらはまだ夜だ。何が見つかった』 ラズは短く伝えた。アシルは少し考え、市場の古道具商から聞いた話を返した。 『王家の月銀は、涙石の光を受けると薄い紋を浮かべる。古い器の傷を見分ける職人の技だそうだ。修復した箇所だけ、石の粉を混ぜた銀が使われる』 ラズは王冠台帳の記述を思い出した。十年前、王冠の内側の留め具を直したとの一行が、空白になる直前の頁にあった。ならば本物には、留め具の近くに月銀の修復印が現れるはずだ。 『温室には逃げ道もある』 『王妃様は、道を知る相手を選んだんだろう』 アシルの声は静かだった。露の矢印は、途中で三つに分かれていた。白百合の列だけが北壁へ通じ、他の二つは水槽と行き止まりへ導いている。知らぬ者を迷わせ、信頼できる者には植物の名と順番で正しい道を知らせる仕掛けだ。 ラズは最後の棚に、小さな鉢植えを見つけた。札には王妃の手で、ナディア、と記されている。市場の果物売りと同じ名だった。 「信頼した人物は、宮廷だけじゃない」 朝日が硝子を染めると、露の文字はほどけて消えた。だがラズの紙には、王冠を見破る方法と、王妃が民へ託した道の始まりが残っていた。

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