chapalette Logo

眠れる探偵こそ王だ

小説ID: cmubdgtjf001q01mzcsa72ky2

6 / 10

ラズは夜明けを待たず、宝物庫の奥に封じ直された王冠の前に立った。盗難騒ぎの後、近衛が祭壇の裏手で見つけたという王冠である。老書記は震えながら三つの鍵を開けた。 「月のない場所で調べる」 ラズは小さな涙石を覆い布の下でかざした。青い光を受けた金の輪は、宝石の縁まで見事に同じ色を返す。だが、十年前に直されたはずの内側の留め具だけは、ただ鈍く沈んでいた。 本物なら、石の粉を混ぜた月銀が細い鷹の羽の印を浮かべる。台帳にも修復を担当した職人の名まで残っている。印がないのは、修復前の品か、修復を知らずに写した品だけだった。 ラズは留め具を爪で軽く弾いた。返った音も、金より薄い。 「これは代用品だ。よくできているが、本物じゃない」 老書記は口を押さえた。「では、盗まれたのは……」 「最初から、この偽物を消した。王冠が守れないと皆に思わせるためにな」 そこへ扉の外から、ゆっくりと拍手が響いた。ザハルだった。彼は護衛を従え、悲しげに眉を伏せている。 「殿下は長い空白の後にお戻りになった。お気持ちが乱れるのも無理はありません。しかし古い台帳の文字と石の光だけで、王家の宝を偽物と断じるのは危うい」 「危ういのは、確かめもせず本物と呼ぶことだ」 ラズが言い返すと、ザハルは老書記へ視線を向けた。老人は唇を震わせたが、何も言えない。大臣の背後には、宝物庫の鍵を預かる近衛隊長までいた。 その日の評議会で、ザハルは王冠を卓上へ置き、深く頭を下げた。 「帰還された殿下には静養が必要です。混乱した御記憶に国家の判断を委ねるわけには参りません」 評議員たちは互いに顔を見合わせた。十年前の王子を知らぬ若い者ほど、もっともらしい言葉にうなずく。再建事業の全権を求める文書へ、賛同の印が一つ、また一つと増えた。 王子の席から引かれる際、ラズは王冠の内側を見た。留め具の脇に、ごく薄い白砂が一粒だけ挟まっている。北の離宮の砂だった。 偽物を置いた者は、本物の隠し場所へ続く道を踏んでいる。ラズは侍女へ目配せし、窓辺に白砂を三粒並べるよう命じた。評議会を失っても、探偵の身体にいるアシルへ伝えるべき手掛かりは、まだ消えていなかった。

Share:

LINE