海中の寄宿学校では、窓の外を魚が横切るたび、授業に集中しろと教師が言った。教師自身も大きな魚は目で追うので、説得力は潮に流されていた。 ナギはその窓際で、海上の故郷から届いた芋の焼き菓子を二つに割った。地味な菓子だった。本人と並べると、どちらが添え物か迷うほどに。 「大きいほう、カイにあげる」 「潜水競技の奨学生には栄養が必要だからな」 人気選手のカイは胸を張り、直後に菓子を取り落とした。ナギは笑わず、机から拾って包み紙に戻した。 「机も毎日拭いてるし」 「そういう慰め方、助かる」 カイは笑った。試験の話が出ると口元だけで笑うことに、ナギは最近気づいていた。 その夕方、カイはナギを旧校舎へ誘った。 廊下の奥には、貝殻の椅子を二脚つないだ古い交換装置があった。銘板は塩で曇り、読めるのは学校の創立年だけだった。 「相手の気持ちが分かる、学校の記念設備なんだって」 「気持ちって、座れば分かるものなの」 「古い学校は教育が大胆なんだよ」 カイに勧められ、ナギは椅子の肘掛けに触れた。向かいのカイも手を置く。淡い光が走ったが、痛くもかゆくもなかった。 「どう?」 「カイは菓子をもう一個ほしがってる」 「最新式じゃないか」 翌朝、ナギは知らないベッドで目を覚ました。 洗面台の鏡にはカイがいた。頬をつねると、学校中が憧れる顔が情けなくゆがんだ。 駆け込んできたのは、ナギの顔をしたカイだった。 「事故だと思う。あの装置、まだ動いたんだ」 「記念設備じゃなかったの?」 「とにかく着替えて。人が来る」 ナギがカイの海藻制服に袖を通すと、背筋が勝手に伸びた。慌てるほど襟が立ち、胸が堂々と前へ出る。 「助けて。僕、今すごく立派なんだけど」 廊下の練習水槽をのぞくと、浅い段差さえ深い崖に見えた。足は逃げたいのに、制服は表彰台を待つ姿勢だった。 カイが声を落とした。 「進級試験が終わるまで、お互いの生活を代わってくれないか。戻す方法は僕が探す」 ナギは親友の顔に浮かぶ、見慣れない必死さを見た。 「まず一日だけだよ」 うなずいた途端、制服が勇ましく胸を張った。約束を大きく見せないでほしかった。
借りた身体、嘘の代償は退学
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