旧校舎の交換装置には、塩を落とした銘板と、使用中の札が掛かっていた。あの日より設備らしく見える。責任というものは、札一枚でも急に存在感を増すらしい。 教員と管理者が立ち会い、二人は貝殻の椅子に座った。 「復帰への同意を、それぞれ自分の名前でお願いします」 「ナギです。同意します」 「カイです。同意します」 今度は、誰も相手の名前を借りなかった。 肘掛けが淡く光り、ナギは目を閉じた。次に息を吸ったとき、胸の広さが懐かしかった。床に届く足の位置も、手の小ささも、自分のものだった。 「お帰り、でいいのかな」 教員が言った。 ナギはうなずいた。帰ってきた身体の中に、怒りも傷ついた気持ちも、そのまま収まっていた。 別々の更衣室で制服を取り替え、確認の机へ戻ると、カイの袖が小さく持ち上がった。肩が控えめに傾き、遠慮がちな会釈になる。 学校中が知る競技選手の制服が、廊下の端で人を先に通す姿勢をしていた。 「……それ、僕だ」 ナギの口から、小さな笑いが漏れた。 管理者は洗い直しの申込書を差し出した。 「装置が戻すのは身体だけです。制服の動作記憶は洗浄が必要なので」 カイも少し笑った。袖だけが、さらに恐縮した。 笑えたことと、許せたことは違った。ナギは隣の椅子には座らず、机の向かいを選んだ。 記録板が開かれると、カイは自分から話し始めた。 「記録の誤りは、奨学生の選考結果を受け取ったときに気づきました。優勝していない大会が載っていました」 訂正すれば学費を払えなくなると思い、黙っていたこと。調査の通知が届いてから装置の申請をし、事故だと信じさせるつもりでナギを誘ったこと。 教員の確認に、カイは日付と、そのとき考えていたことを答えた。曖昧だった時間に、一つずつ印が付いていった。 「僕が計画しました。ナギは知りませんでした」 ナギは膝の上で手を開いた。その先で自分が選んだ嘘は、提出した申告に残っている。 面談が終わると、カイが立ち止まった。 「ごめん。友達だから助けてくれるって、勝手に決めた」 ナギはその言葉を聞いてから、自分の声で答えた。 「まだ、一緒に帰る気にはなれない」 カイはうなずき、道を空けた。 制服の袖がまた会釈した。ナギは笑わず、自分の足で廊下へ出た。
借りた身体、嘘の代償は退学
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