役場で公開されている工事資料を開くと、納品番号は堰堤の中央部につながった。写真には、積み上げた石の前に立つ女と、その腕に抱かれた小さな子が写っていた。子の肘には、私と同じ白い石目があった。 次の写真では女の姿が消え、中央に白筋のある大石が据わっていた。ただ、それだけで母だと決めることはできなかった。 担当者は、当時の施工記録を出してくれた。石の人外は、自ら選んだ石の構造物と一体になれる。一度つながれば、人の姿に戻ってそこを離れることはできない。人の体を材料として運び込むのではなく、本人の意思で石へ帰る工法だった。 記録には、上流の崩れやすい岩を押さえるため、本人の同意を得て施工したとあった。 私は立入りの許可を受け、晴れた日の点検に同行した。係員が足場と水位を確かめてから、番号の刻まれた石へ案内してくれた。濡れた表面に、細い白筋が走っていた。 手を置くと、丸石で聞いてきた声が響いた。 「ここに残る。この子は家へ」 続きはなかった。呼びかけても、母さん、と言っても、返事はなかった。石に残った昔の声であって、今の母と話せているわけではない。 帰りに閲覧した添付書類には、養父母に宛てた依頼書があった。子を裏庭に託したこと、身元を確かめる手続きの後も引き取ってもらえたなら、別に預けた金を養育に使ってほしいこと。署名の脇の白筋の印は、施工同意書と同じだった。依頼書は工事の世話役が保管し、金だけを届けていた。 写真の日付、納品番号、送金控えを並べた。私はようやく、母が行かなかったのではなく、行けなくなったのだと知った。母の残った堰堤の下流には、私を育てた家もあった。 けれど、新設備の不足額は減らなかった。妹が来ないと決めた曜日も、そのままだった。 夕食のあと、妻に資料を見せた。 「母は、あそこに残ることを選んだ。でも、それを私がこの家に残らなければならない理由にはしない」 言いながら、窓の外の作業場を見た。離れれば恩を捨てることになる気が、まだしていた。 それでも私は、同じ規模で建て直す見積書を脇へ置いた。駅近くの物件と外注の料金表を開き、明日確かめる契約の項目を書き始めた。母が守った場所で、私たちは暮らし方を変えてもよかった。
家業も介護も堰堤の補修も
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