施工業者の机に、私は見積書と図面を並べた。合計額の横に署名する前に、何を頼む金なのか、一行ずつ確かめた。 「運搬には、積み込みと荷下ろしも入っていますか」 業者はうなずいたが、切断機の撤去は別だと言った。基礎工事には地盤の補強を含まず、水と動力の接続も敷地の境までだった。 私は抜けていた費用を余白に書いた。追加が必要になったら、着手前に金額と理由を書面で知らせ、私が承認してから進める。支払日は補償金の入金予定と照らし、遅れた場合の扱いも決めた。 安くなったわけではない。見えていなかった負担が、見えるようになっただけだった。 帰宅して、棚の石を仕分けた。注文に使える石、保存見本、処分を頼む端材。手に取るたび、昔の客の声が短く響いた。 「次も、これと同じ石で」 その客が今も注文するかは分からない。声を理由に全部を運べば、運び賃も置き場も増える。私は納品帳と照合し、見本は番号ごとに一片を残した。養父が磨いた大きな台座も、引き取り先を探す側へ置いた。 補償の担当者には、縮小する場合の書類を確かめた。補償金をそのまま使える金と考えず、税務の専門家に資料を渡し、申告と納税に備えて残す額も見直した。 数日後、食卓に新しい案を広げた。駅近くの小さな加工場では仕上げと受付だけを行い、大きな切断は外注する。住宅は診療所に近い別の建物を借りる。店までの距離は増えても、養父母の寝室に機械の音は届かない。 「この額までなら、家計から出せる」 妻が上限を記した。私は店の支払いをその外へはみ出させないと決め、妹の立替分の返済日を入れた。火曜と木曜の通院は私が受け持ち、店を閉める時間を注文票にも書く。妻の店番は勤務のない土曜の午前だけとし、訪問介護が決まれば分担表を見直すことにした。 妹はようやく、自分の予定帳を開いた。 母は石へ帰れば、そこを離れられなかった。私は声の残る丸石を新居へ持っていける。だからこそ、家族の誰にも、期限のない我慢を契約させたくなかった。 翌朝、古い家を再現する図面を畳んだ。代わりに署名した契約書には、仕事の範囲と終わる日が書かれていた。
家業も介護も堰堤の補修も
小説ID: cmvzdza6q000201s6dkswlmpt

7 / 10
