膝の上のお守り袋を持ち上げてみた。糸そのものは軽い。けれど、袋を机に置いても、脚にまとわりつく重さは残った。 夕日はまだ海に沈みきっていない。明るいうちに底だけでも編むつもりだったのに、できかけの袋は、酔っぱらった家みたいに斜めになっていた。 「先輩のお守りが、これじゃなあ」 私は鞄から貝の形の砂糖菓子を取り出した。午後に買っておいた、とっておきだ。ひと口かじると、蜂蜜の甘さが舌に広がる。おいしい。ちゃんと、おいしい。それだけで少し安心できた。 セナ先輩なら、形が悪くても笑って受け取ってくれる。だからって、甘えてばかりもいられない。 椅子の座り方が悪かったのだと思うことにして、針を持ち直した。 ひと目。もうひと目。 今度は腰まで重くなった。 足の裏で床を押しても、椅子から身体が離れない。まるで誰かが背後に立ち、両肩へ静かに手を置いているみたいだった。 首だけを動かして振り返った。 誰もいない。 閉めた窓の内側が、白く曇っていた。部屋は寒くないし、湯も沸かしていない。指で小さく拭うと、そこだけ浜が見えた。人影は横一列に並び、どれもこちらへ顔を向けているようだった。 拭った場所は、すぐに曇り直した。 窓ガラスから手を離す。指先が濡れていた。舐める気にはなれなかった。さっきまで甘かった口の中に、なぜか潮の味がした。 細く開けたままの扉へ目を戻した。 三つだった足跡の先に、新しい濡れ跡があった。廊下の奥から私の部屋へ向かい、入口の敷居で途切れている。右足と左足。その最後の二つは、つま先を扉の隙間へそろえていた。 音はしなかった。 私は机の端をつかみ、椅子を引きずるように身体を寄せて、扉を押した。閉まる寸前まで、隙間に人の姿は見えなかった。 かちり、と掛け金を落とす。 その音が消えてから、扉の下に細い影が差し込んだ。 廊下の明かりを誰かが遮っているのだろう。そう考えたかった。でも影は、明かりとは逆の側へ、ゆっくり伸びてきた。 「どなたですか」 返事はない。 握っていた砂糖菓子が、指の間で小さく砕けた。 影の先が、椅子の脚に触れた。そこで止まったのに、膝の重さだけは増していく。 机の上では銀色の毛糸玉が、扉へ向かって、ほんの少し転がった。
先輩へのお守りが指の温もりを奪う
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