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先輩へのお守りが指の温もりを奪う

小説ID: cmw6j7cen000201lh4jlz0lvb

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主人は部屋の中をのぞき、机の銀糸を見て眉を寄せた。 「その糸、浜の露店で買ったのかい」 私がうなずくと、もう一度、匙が鳴った。主人は敷居を越えなかった。 「灯台の展示室へ行ってみるといい。夕方まで開けてるから、今なら間に合う。似たものを見た覚えがある」 何に似ているのか、聞く勇気が出なかった。 私は糸を包み直し、パンをひと口だけかじって宿を出た。煮込みを残したのは、この旅で初めてだった。 灯台へ続く坂道には、夕日の赤が細く残っていた。背中の鞄は軽い。それでも、ときどき肩ひもを引かれる気がして、何度も掛け直した。 小展示室の扉を押すと、古い木と乾いた紙の匂いがした。受付の椅子は空で、奥に明かりだけがついている。 漁具や航海日誌の隣に、小さな袋が飾られていた。 色あせた銀糸で編まれた袋。その中央には、波を囲むような輪の模様がある。 鞄から包み紙を出した。端に印刷された飾りだと思っていた線が、同じ形をしていた。セナ、と書いた名前のすぐ下で、輪が閉じている。 喉が狭くなった。 添えられた説明には、海から帰れなかった人々のため、銀糸で帰り道を編む習わしが記されていた。編み目を重ねて道をつなぎ、最後に輪を閉じる。そうして、待つ者のもとへ帰したのだという。 お守りを作っていたつもりだった。 私が増やしていたのは、道だったのか。 説明の下には、袋の仕上げ方が図で描かれていた。私は手帳を開いた。途中でやめるより、終わらせ方を知っておきたい。 口をすぼめ、端の糸を最後の輪へ通す。 そこまで写したとき、展示ケースに映る私の後ろに、人が立っていた。 一人ではなかった。 肩の高さが違う影が、入口から壁沿いに並んでいる。誰も動かない。私の手元を見ているように、顔だけが同じ角度で傾いていた。 鉛筆の芯が折れた。 振り返った。 空の椅子。閉じた扉。床に伸びる、私だけの影。 誰もいない。 ケースへ目を戻すことはできなかった。手帳を閉じ、後ずさった靴の先で、小さな光が揺れた。 床に水が一滴、落ちていた。 私の靴は乾いている。天井にも染みはない。 しゃがむと、乾いた紙の匂いの下から、濃い潮の匂いがした。 その一滴だけが、夕日の届かない場所で、いつまでも乾かなかった。

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