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先輩へのお守りが指の温もりを奪う

小説ID: cmw6j7cen000201lh4jlz0lvb

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灯台の白い壁が、宿の窓の向こうで朝日を受けていた。私は膝の上のお守り袋に目を戻した。 「あと三つ。大丈夫、間違ってない」 セナ先輩が編み目を指で追う。ひと目進めると、身体が椅子へ深く沈んだ。床を踏んでも立てない。針を持つ腕まで、濡れた砂に埋まったみたいだった。 「二つ。あと、ひとつ」 半開きの扉の向こうで、人影が肩を寄せ合っている。その隙間から、灯台にはないはずの赤い屋根が見えた。 私は先輩の声だけを聞いた。迷った森で呼んでくれた声。失敗した私に、スープが冷めるよと言ってくれた声。 「今まで、ありがとうございました」 先輩の指が止まった。 「これからも言って。何度でも聞くから」 うなずいて、糸の端を最後の輪へ通した。銀色の穴が細くなり、向こうの暗闇が閉じた。 「受け取ってください」 震える手を伸ばす。先輩が小さな袋を両手で包んだ瞬間、膝から重さが抜けた。 廊下の人影が、一斉に浜へ向き直った。濡れた足跡が、扉に近いものから順に乾いていく。足音は一つもしなかった。 先輩の靴の波音も、止まっていた。 朝の浜には、誰もいない。私は息を吐き、袋の端をもう一度つまんだ。 手触りが、なかった。 銀糸は確かに指の間にある。指先をこすっても、さっきまでの滑らかさが届かない。先輩の手に触れれば、その温かさは分かった。 「……終わったんですね」 先輩は袋を握ったまま、うなずいた。 帰りの列車では、貝の形の名物菓子を半分ずつ分けた。蜂蜜は甘く、砕けた欠片のざらつきも、指に残った。 「次は私が、お土産を選ぶ番だね」 先輩の膝には、お守り袋が載っていた。 「食べられるものがいいです」 「うん。でも、これもすごく温かいよ」 先輩が笑って差し出した。私はその銀色を、手のひらに受けた。 手触りはない。 それなのに、指ではないどこかへ、冷たさが沈んでいく。 窓の外の海はもう見えない。私の手の中にだけ、底のない海が残っていた。

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