第五番、名を呼ばれると、部屋の隅で誰より静かに膝を揃えていた者が、するりと立ち上がった。背は高くも低くもない。目立つ装飾もない。ただ、そこにいるだけで畳の上のざわめきが、ひと呼吸ぶんだけ落ち着くのがわかった。 「第五番、縁守りのトオル。わたしは、賑やかな場のすみを受け持っています」 声は穏やかで、急かす響きがない。アカネが首をかしげた。 「すみ、ってのは具体的に何をするんだい」 「立つ場所を決め、座る順を乱さず、こぼれそうな気配を受け止めます。祭りでも会議でも、輪の外があるから内側が保てるでしょう」 トオルはそう言って、畳の縁を指先でそっとなぞった。すると、今しがたまで落ち着きなく揺れていた空気が、目に見えない手で整えられたように澄んでいく。誰かの笑い声が少し遠くなり、誰かの咳払いが妙に目立たなくなる。場全体の呼吸が、ひとつ低いところへ降りたのだ。 「へえ、場の縁取りか」カズラが感心したように言う。 「そうです。縁があるから、真ん中が映えます。あまり前へ出る仕事ではありませんが、なくなると困るものです」 ミナトが細い目をすっと動かした。「あなた、引くのが上手いのね」 「引くというより、立ち止まってもらう方が近いかもしれません」 シラベが小さくうなずく。「熱をやわらげるのと、少し似ていますね」 「ええ、ですが私は冷やしません。急ぎすぎる足をいったん地に戻すだけです」 トオルの言葉には、派手さはないのに不思議と耳が残った。アカネの灯りが人を呼び、シラベの霧が輪郭をほどき、カズラの手が欠けを直し、ミナトの鏡が違いを映す。そしてトオルは、それらが散らばらないよう、場の端を静かに押さえている。五人目にして、ようやく私は気づいた。この集まりは、前へ前へと進むだけの宴ではない。寄せ、整え、直し、映し、支えることで、初めてひとつの夜になるのだ。 トオルが最後に深く頭を下げると、座敷の空気はすっかり落ち着いていた。だが静かになったぶん、次の名が呼ばれる前の間が、かえって鮮やかに感じられる。私はその沈黙の中に、何か小さな異変の芽のようなものを見た気がした。まるで、静かに整えられたはずの縁の外で、まだ誰かが順番を待っているように。 そのとき、奥の襖の向こうで、ひとつだけ見知らぬ笑い声がした。誰のものでもない、はずだった。
妖怪三十体自己紹介
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