第九番と呼ばれたとき、トキワの笑いがまだ畳の上に残っていた。けれど立ち上がったのは、その余韻を受けてなお軽やかな、細身の女だった。袖は長く、指先は落ち着いている。顔立ちは穏やかなのに、目だけが妙に遠くまで見ている。 「第九番、継ぎ火のユズリ。私は、消えそうなものを次へ渡す役目をしています」 アカネが首を傾げた。「火の仲間かい」 「似てはいます。でも、灯すより残す方が近いでしょうね。盛り上がりの勢いだけでは、夜は明ける前にしぼんでしまう。だから私は、みなさんの言葉の端を拾って、次の人が話しやすい形に編み直します」 ミナトが興味深そうに笑った。「返すだけじゃなく、少し先へ送るのね」 「ええ。第四番のあなたが違いを映すなら、私は余韻を残します。第八番のように抜けていても、第七番のように距離があっても、最後にぽつりと置かれた一言には、次へ渡る力がありますから」 トキワが苦笑した。「俺の抜けっぷりまで役立てるのか」 「ええ。抜けているからこそ、隙間に風が通ることもあるでしょう」 その返しに、トキワは肩を落としつつも、どこかほっとした顔をした。シラベが静かにうなずく。 「火を守るだけではなく、火種を残すのですね」 「そうです。燃え盛るより、消え際が大切なこともある。言葉も同じです。終わったように見えて、実は次の誰かの胸で少しだけ残る。その残り火が、場を前へ運びます」 カズラが低く笑った。「妙に締めるじゃないか。もう終わりみたいだ」 「終わりに見せることで、続きが生きることもあります」 ユイが薄く目を細めた。「水脈は、最後に少しだけ流れを強めるんですね」 「ええ。ここまで集まったものを、ひとつの夜として結ぶために」 ササメが静かに息をついた。「なら、あなたは輪の中心ではなく、輪をほどかない結び目ね」 ユズリは微笑んだ。「そうかもしれません。結び目は目立たない方がいい。けれど、ほどけたら困る」 その言葉で、座敷の空気がしんと澄んだ。アカネの火はやわらかく揺れ、シラベの霧は薄く広がり、カズラの手は静かに膝へ戻る。ミナトは誰もいない空間にまで視線を送り、トオルは縁を確かめるように背筋を正す。トキワは少し居住まいを改め、ユイは水面のように深く目を閉じた。 私は、その光景を見ながら、ひとつのことを悟った。彼らは番号の順に並んでいるのではない。渡され、受け取り、残し合うことで、最初から一つの流れになっていたのだ。第九番の一言は、それを最後まで見せるための火だった。 そしてユズリが最後に、私の方へだけ小さく会釈した。 「あなたも、もう次へ渡す側です」 その瞬間、座敷の奥で、まだ呼ばれていないはずの番号が、かすかに笑った。
妖怪三十体自己紹介
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