第七番の名が呼ばれた瞬間、私はなぜか胸の奥がひやりとした。先ほどまでの水音じみた余韻が、座敷の隅に沈んだまま動かない。立ち上がったのは、背の高い男でも、妙に薄い影でもなかった。ひと目で強いとも弱いとも言い切れない、ほどよく人の輪に馴染む顔立ちの女だった。 「第七番、間渡りのササメ。私は、ひとりでいる者と、ひとりにしない者のあいだを受け持ちます」 声は控えめなのに、妙に通る。アカネが小さく手を打った。 「仲介役ってわけかい」 「ええ。ただし、丸く収めるのが仕事ではありません。近づきたい者には近づけるし、離れたい者には離れられるようにする。無理につなげると、縁はかえって傷みますから」 カズラが腕を組む。「それは難しい仕事だな」 「ええ、だから私ひとりでは成り立ちません」 ササメはそう言って、座敷をゆっくり見渡した。視線が触れるたびに、妖怪たちの姿勢が少しずつ変わる。アカネは前のめりになり、シラベは静かに距離を保ち、トオルは場の端を押さえるように指先を揃えた。ミナトは誰と誰の間に視線を置くかを探り、ユイはその全体を、まだ岸に上がりきらない水のように眺めている。 「私は、みなさんの真ん中には立ちません」ササメは続けた。「真ん中に立つと、誰かの言葉を先に決めてしまう。そうではなくて、少し離れた場所から、誰が誰に近づきたいのか、誰がどこで立ち止まりたいのかを見ます」 アカネが笑った。「ずいぶん気の利いた遠巻きだねえ」 「近すぎれば見えないこともあります」 その返しに、トオルが目を細めた。「縁守りと似ていますね。けれど、あなたは縁を守るより、縁の行き先を見る」 「そうです。縁は、ただ囲うためにあるのではないのでしょう。集まる者と、離れる者と、戻る者。その流れがあって初めて、場は生きる」 その言葉で、私ははっとした。ここまでの自己紹介は、ひとりずつの個性を見せるだけではなかった。アカネが呼び、シラベが整え、カズラが直し、ミナトが映し、トオルが支え、ユイが繋ぎ目の曖昧さを示した。そしてササメは、その全部を眺める位置に立っている。集団の中にいるのに、集団に溺れない者。けれど孤立しているわけでもない。 「つまりあなたは、輪の外側から輪を育てるのか」ミナトが言う。 「いいえ。輪の外側にいる者が、輪を怖がらなくていいようにするのです」 その一言で、場の空気がふっとほどけた。ユイが静かにうなずき、シラベは目を伏せ、アカネは大きく息を吐いて笑った。誰かを無理に引き込まない。その距離感こそが、仲間意識をいちばん確かな形にするのだと、私はようやく理解する。 ササメは最後に、私の方へも視線を寄こした。案内されるだけの客だった私が、この場ではもう完全な外側ではないことを、彼女は知っているようだった。
妖怪三十体自己紹介
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