それから数日経つと、店の客層にも少しずつ顔ぶれの癖が見えてきた。夕方になると、棚の前で長く悩む人、夜中に甘いものだけを一つ買っていく人、そして妙に細かい注文を持ち込む常連がいる。俺はまだ慣れきらない手つきでレジに立ちながら、その一人ひとりに追いつこうとしていた。 最初に戸惑ったのは、商品の名前をなかなか言えない客だった。中年の男性が、棚の上を指差しながら、あの、細長くて、冷たいやつ、と言う。俺は数えきれないほど並ぶ飲料の中から、見当をつけて差し出したが、違う、もっと酸っぱい感じの、と首を振られた。何度目かでようやく目当ての品にたどり着くと、男は気まずそうに笑い、でも君、根気あるねえとつぶやいた。その一言だけで、空回りしていた気持ちが少し軽くなる。 次に来た常連の女性は、要望がやたらと細かかった。おにぎりは温めず、袋は二重にせず、でも箸は一膳つけて、できれば角をそろえて入れてほしい、という具合だ。俺が慎重に手を動かすたび、女性はじっと見つめて、そう、それでいいの、と頷いた。ところが最後に、手渡したレシートを見て、今日はポイントを使いたかったのよね、と静かに言う。俺は一瞬固まったが、すぐに頭を下げ、会計をやり直した。店長が横で苦笑しながらも、落ち着いて対応してくれたおかげで、場の空気は荒れずに済んだ。 そんな行き違いは他にも続いた。温めたまま渡すつもりだったスイーツを冷たい棚へ戻してしまったり、探していた限定商品が別の棚に紛れていたり、客が欲しいのは新作ではなく前の味だったりする。けれど、俺が焦って言い訳を始める前に、相手のほうが「ああ、まあいいよ」と笑ってくれることも増えた。素直に謝り、確かめ、必要ならもう一度やり直す。それだけで、意外と多くの場面は丸く収まるのだと知る。 閉店間際、常連の男性が缶コーヒーを一つ置き、今日は君がいるから安心する、と言った。銀色の髪を見て驚かれることもまだあるが、今ではそれも店の風景の一部になりつつある。レジの向こうで交わされた何気ない会話が、少しずつ俺の居場所を形にしていった。忙しさに追われるたび、ここはただ働く場所ではなく、人と人が小さく噛み合う場所なのだと思えてくる。俺は温め機の表示を確かめ、次の客を待ちながら、自然と息を整えていた。
銀髪バイトのコンビニ日誌
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