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銀髪バイトのコンビニ日誌

小説ID: cmpovhgtc000001pq8hcypqzb

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その日は朝から、店の空気が妙にざわついていた。祝日前の繁忙日で、駅から流れてくる客の数も普段より多い。俺はレジ横で呼び込みの声を整えながら、冷蔵ケースの補充がいつも以上に追いつかないのを見ていた。昼を回ったころ、店長が納品伝票をめくったまま固まる。人気の弁当が、丸ごと一箱足りない。発注の数字を見誤ったらしい。 「まずいな。これ、夕方まで持たないかもしれない」 店長の声に、佐伯さんが顔をしかめた。ちょうど学生の下校時間と重なれば、棚は一気に空く。俺は空っぽになりそうな棚を見て、別の棚へ視線を走らせた。似た味の惣菜パン、温められる麺類、少し値は張るが腹持ちのいいセット。完全な代わりにはならなくても、選択肢を並べれば流れは止まらないはずだ。 「隣の棚を先に目立たせませんか。弁当がないと分かった瞬間、何もないと思われるのが一番危ないです」 俺が言うと、山田さんがすぐに頷いた。なら、案内札を出そう、温め可能なものをまとめよう、飲み物も合わせて勧めればいい。三人で短く相談し、俺は手の空いている場所から売り場を動かした。だが、慌ただしさは想像以上だった。 ちょうどそのとき、レジには学生の列が伸び、奥では補充用の箱が届き、さらに店内放送の点検音が鳴り出した。誰かが触れたらしく、案内の声が妙に高く響く。いらっしゃいませが、妙に伸びた音で店内にこだまして、列の先頭にいた子どもが目を丸くした。佐伯さんが肩を震わせる。俺は笑いそうになるのをこらえ、先に棚へ向かった。 そこへ、常連の男がやって来て、いつもの弁当を指さした。ないと知ると、残念そうに眉を下げる。俺はすぐに代わりの品を三つ並べ、これなら近いです、と説明した。男はしばらく迷い、それから一番安定していそうな麺類を選ぶ。助かったよ、と言われた瞬間、レジ奥でまた一つ大きな音がした。 今度は、放送機の切り替えを試した店長が間違って、店内ではなくバックヤードの連絡用マイクを生かしてしまったのだ。今日は棚が足りません、と必要以上に真面目な声が流れ、山田さんが思わず吹き出す。客までつられて笑い、緊張の糸が少しほどけた。 その笑いの間に、俺たちは空いた棚へ代替商品を詰め、案内札を揃え、人気品の代わりに推せる組み合わせを前面に出した。完璧ではないが、足りないものを隠すより、あるものを見せるほうが早い。混雑は続いたのに、なぜか店の中には妙な一体感があった。 閉店準備のころ、店長が深く息をついた。今日は助かった、あの発注ミスがなければ気づけなかったかもしれない、と苦笑する。俺は空になった棚を見上げ、銀色の髪に落ちる蛍光灯の光が、今日は少し違って見えるのを感じていた。慌ただしさの中心にいたはずなのに、誰かと相談しながら動くたび、焦りはただの騒ぎに変わっていく。次の繁忙日も、きっとまた波は来る。けれど今度は、ひとりで受け止めなくていい。そう思えた瞬間、店の奥から次の納品の気配がして、俺は自然と背筋を伸ばした。