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銀髪バイトのコンビニ日誌

小説ID: cmpovhgtc000001pq8hcypqzb

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翌朝、開店して間もない店内はまだ客足もまばらで、昨日の騒ぎが嘘みたいに静かだった。俺がレジ横の端末を確認していると、佐伯さんが奥から紙袋を三つ抱えて戻ってくる。どれも同じ店のロゴが入っていて、見覚えがあった。棚の下や休憩室、返却台の脇に置き去りにされた忘れ物らしい。 「また増えてる。誰かが慌てて置いていったんだろうね」 店長が紙袋を覗き込み、順に中身を広げた。折りたたみ傘、片方だけの手袋、古びた定期入れ。俺はそれぞれに小さく付いたレシートや名前の切れ端を確かめ、拾得記録をつける。だが、最後の袋の底から出てきたのは、見慣れない木製のキーホルダーと、コンビニとは縁の薄そうな小さな鍵だった。鍵には細い糸が結ばれ、端に色あせた青い糸玉がついている。 「これ、近所の人のかな」 午後になると、俺は記憶をつなぐように客へ声をかけた。夜に傘を忘れたという会社員、朝に定期入れを探していた学生、子ども連れで来た主婦。ひとつひとつは些細でも、つなぎ合わせると意外な輪郭が浮かぶ。会社員は、あのキーホルダーを見て首を傾げたあと、そういえば、毎朝同じ時間に来る紳士が似たものを持っていたと言った。学生は、その人がいつも菓子パンを一つだけ買い、レシートを丁寧に折る癖があると教えてくれた。 俺はレジの外へ視線を走らせた。昼過ぎ、店先のベンチで新聞を広げていた年配の男が、ふとこちらを見上げる。銀色の髪に気づいたのか、彼は少しだけ目を細めた。客の証言にあった紳士は、あの人だろうか。 声をかけると、男は驚いた顔で立ち上がった。忘れ物の袋を見せると、彼はしばらく黙り、それから小さく笑った。 「まさか、ここまで届いていたとはな」 男は名を名乗り、定年後に近くのアパートへ越してきたばかりだと言った。毎朝同じ時刻に来るのは、決まったパンを買うためではなく、向かいの花屋で働く娘に朝食代わりの飲み物を届けるためだという。あの鍵は、娘が子どものころに使っていたロッカーのものらしかった。今はもう使わないのに、捨てる気になれず、ついポケットに入れたままにしていたのだと、男は少し照れくさそうに言う。 その話を聞いて、俺は不思議な気持ちになった。忘れ物の山はただの落とし物じゃない。急いでいる誰かの事情や、言いそびれた気持ちまで、そっと包んでいる。店の隅に積まれた小さな品々が、客同士の距離や、見えない暮らしの線を静かに照らしていた。 男が帰り際、ありがとうと頭を下げる。俺は袋を抱え直しながら、こちらこそ、と返した。すると店長が、あの人、毎朝ずっと見守ってたんだな、と意味ありげに笑う。たしかに、何気ない来店の裏には、それぞれ別の顔がある。俺は返却台を整え、次の忘れ物札を見上げた。銀色の髪の自分も、誰かの目には、ただの派手な店員ではなく、こうして人のつながりを拾う存在に見えているのかもしれない。そんな予感が、静かな店内でやけに鮮明だった。