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銀髪バイトのコンビニ日誌

小説ID: cmpovhgtc000001pq8hcypqzb

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深夜の混雑が少し落ち着いたころ、店内放送の機械が不機嫌そうに唸った。最初は雑音だけだったが、やがて注意喚起の文言が途切れ、画面のランプが点いたり消えたりする。店長が本体を叩くように見て、ああ、これ完全に機嫌を損ねたな、と苦笑した。 「悪い、今日は俺が直す。……ついでに、俺の代わりに案内を頼めるか」 その一言で、なぜか店内の視線が一斉に俺へ集まった。アナウンス役。たったそれだけの言葉なのに、胸の奥が妙に冷える。レジ前には会計待ちの列、奥には温め待ちの客、入口では傘をたたむ人が立ち止まっている。俺は乾いた喉を飲み込み、マイクを受け取った。 「ええと、本日もご来店いただき、あ、いただき……ありがとうございます」 開始三秒で噛んだ。店長が肩を震わせ、佐伯さんが下を向いたまま笑いをこらえる。俺は顔が熱くなるのを感じながら、もう一度息を吸った。 「ただいま、レジ前が少々、混み合っております。お急ぎの方は、あの、右側の……ええと、左側のレジへどうぞ」 左右が逆だった。沈黙のあと、客席から小さな笑いが起きる。おいおい、と言いたげな空気まで混じるのに、誰も怒っていない。それが逆に怖くて、俺はますます早口になった。 「店内では、走らないでください。あと、走らないでください。二度言いました」 今度は間違えて注意を強調しすぎた。子どもが吹き出し、並んでいた会社員まで口元を押さえる。山田さんが涙目でレジに伏せた。店長は機械の再起動を諦めたのか、もういい、そのまま続けて、と手を振る。 俺は観念して、放送原稿を見ずに話すことにした。 「温かいお弁当は、ただいま出来上がり次第、順にお渡しします。お待ちの間は、雑誌棚の前や、飲み物の棚をご覧ください。探している物があれば、遠慮なく声をかけてください」 言い終えると、店内がふっと静かになった。さっきまでの笑いが、妙にあたたかい余韻として残る。すると、入口近くにいた常連の男が、わざと大げさに手を挙げた。 「放送より聞き取りやすいな。今の、もう一回頼む」 俺は思わず目を瞬かせ、それから自分でも小さく笑った。再びマイクを持ち直し、今度はゆっくり言う。すると、客たちが自然と耳を傾け、列の流れも整い始めた。機械の不調で始まった騒ぎは、いつのまにか店じゅうの空気をやわらかくしていた。 放送を終えるころには、店長が修理を終えた機械を見て、今日は人の声のほうがよく届いたな、と呟いた。俺はマイクを返しながら、耳まで熱いのを隠せない。それでも、笑われたことが恥ではなくなっていた。むしろ、あの一瞬の失敗が、ここでは誰かを苛立たせるより先に、場をほどくこともあるのだと知る。 レジの向こうで、銀色の髪が蛍光灯を受けて静かに光る。客の誰かが、その色を見てにやりとした。俺は次の案内札を手に取り、今度こそ間違えないように息を整える。