深夜零時を回ると、店内の音は驚くほど薄くなるはずだった。だがその夜は、静けさが続かない。品出しを終えた俺が冷蔵ケースの前でラベルをそろえていると、店長が腕まくりをしながら奥から出てきて、よし、棚整理大会を始める、と妙に張りのある声を上げた。 大会、と聞いて振り返ると、同僚の佐伯さんは既に菓子棚の前で腕を組み、山田さんはメモ帳を片手に頷いている。どうやら、売れ筋を前面に出すか、賞味期限の近いものを先に寄せるかで、全員のこだわりがぶつかり合っているらしい。店長は効率、佐伯さんは見映え、山田さんは補充のしやすさを主張し、売り場の一角が小さな会議室みたいになっていく。 俺はとりあえず、言われた通りにチョコの棚を空けた。すると佐伯さんが、いや、甘いものは右じゃなくて左に寄せたほうが流れがきれいだと言い出し、山田さんが、それだと新商品が埋もれると反論する。店長は両者をなだめながら、なら一段ずつ試そう、と半ば楽しそうに指示を出した。俺は何度も箱を持ち直し、同じ棚を三回も整えたが、そのたびに誰かの目が細かくなり、誰かの頷きが増えた。 遠回りばかりで、正直、最初は少し笑ってしまいそうだった。だが、誰かが一段そろえると、別の誰かが隣を整え、最後には全体の色の流れまで落ち着いて見えてくる。手元の箱を運ぶ速さより、互いの動きを見てから次に動くほうが大事なのだと、少し遅れてわかった。俺が空いた場所に新しい商品を差し込むと、佐伯さんがうん、そこ、いい、と小さく言う。その一言で、背中の力が抜けた。 休憩室に戻るころには、棚の角はきっちりそろい、冷蔵ケースの前には無駄な空白もなくなっていた。店長は満足げにうなずき、これで今夜の客にも迷わせないな、と呟く。山田さんが冗談めかして、次は売り場の見た目大会ですねと言うと、皆が小さく笑った。 その笑い声の中で、俺はようやく気づく。ここでは、一人で早く進むことだけが正解じゃない。立ち止まって向きを合わせるたび、互いの癖が少しずつ噛み合っていく。銀色の髪が蛍光灯に映るたび、前なら落ち着かなかった視線も、今はもう気にならない。むしろ、その光の下で、俺はこの店の夜にちゃんと混ざっている気がした。
銀髪バイトのコンビニ日誌
小説ID: cmpovhgtc000001pq8hcypqzb
3 / 10
