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銀髪バイトのコンビニ日誌

小説ID: cmpovhgtc000001pq8hcypqzb

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数日後、近隣の店舗を巻き込んだ接客コンテストが開かれることになった。店長が朝礼でさらりと言った瞬間、俺は一度、聞き間違いかと思った。客をもてなす速さや丁寧さを、普段の仕事の延長で競うらしい。しかも、審査するのは本部の人間だけでなく、回遊してくる常連客たちだという。 「勝つことより、うちの色を見せるのが大事だぞ」 店長はそう言って笑ったが、佐伯さんはもう勝負の顔で品出しの位置を見直している。山田さんは試食品の配置を考え、俺はレジ前の声かけを何度も口の中で転がした。相手は駅前の大型店と、少し離れた住宅街の店。どこも手慣れていそうで、胸がじわじわと熱くなる。 午後、最初の来客が競技用の札を見て首をかしげた。俺は慌てず、いつも通りに袋詰めを始める。すると、向こうの店の店員は流れるような動きで会計を終え、淡い笑みまできれいに決めてみせた。すごい、と思う反面、妙に整いすぎていて、こちらの空気とは少し違う気もした。 順番が回ってくるたび、店ごとの癖が露わになる。ある店は説明が端的で速く、ある店は商品知識がやけに深い。うちの順番になると、店長が先に常連の顔を見つけて、いらっしゃい、今日はおすすめがあるよ、と自然に声をかけた。その声につられるように、客が棚のほうへ流れていく。俺はレジで会計をしながら、相手の好みを覚えていたことを思い出し、前に買っていたものをさりげなく勧めた。 思えば、ここでは完璧な応対より、少し先回りした一言のほうが効く。慣れた客には冗談を返し、急いでいる人には無駄を削る。迷っている人には、選びやすいように棚を指差す。そうした細かな積み重ねが、競技のために作ったものではない、本当の店の形だった。 終盤になると、審査の人まで思わず笑っていた。銀色の髪を見て入ってきた若い客が、写真を撮るより先に温かい飲み物を選び、会計のあとで、なんだか落ち着く店ですねと呟く。俺はその言葉に、胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。 結果発表は、意外な引き分けだった。どの店も評価が高く、勝敗はつけがたいという。けれど、最後に本部の人が、いちばん印象に残ったのは客同士が自然に会話していたことだと言った。うちの店では、常連が新人客に商品棚を教え、店長が奥から出てきて一緒に笑っていた。点数にはならない温度が、そこにあったのだろう。 閉店後、店長が賞状を掲げながら、うちは見た目より人懐っこいからな、と言った。佐伯さんは負けた気がしない顔で腕を組み、山田さんは次はもっと映える陳列にすると燃えている。俺は三人のやりとりを見て、ふと気づいた。ここは、早さや正確さだけで勝つ店じゃない。誰かが入ってきたとき、少しだけほっとできる店なのだ。 銀色の髪に蛍光灯の光が落ちる。もう目立つことは、怖くない。むしろ、この店の温度を外へ知らせる旗みたいで、少しだけ誇らしかった。俺は次のシフト表を確認し、明日もこの空気を続けようと、静かに息を整えた。