翌週のある夕方、レジ横の休止札を片付けていると、店の前に妙な人だかりができた。最初は通行人かと思ったが、皆、スマートフォンの画面を覗き込みながら、ちらちらとこちらを見ている。やがて若い客が一人、遠慮がちに入ってきて、あの、銀髪の店員さんってここですか、と言った。 どうやら、誰かが店の写真を上げたらしい。蛍光灯の下で目立つ髪色が思いのほか映えたのか、短い文と一緒に広まり、面白い店員がいるコンビニとして話題になっていた。次の客も、その次の客も、目的の商品より先に俺を探すような顔で入ってくる。落ち着いて働きたくて選んだはずの場所が、急に見世物小屋みたいに変わってしまい、胸の奥がじわじわ熱くなった。 店長は困ったように笑いながらも、まあ悪いことばかりじゃない、と棚の前を指さした。確かに客は増えたが、みんな好奇心だけで騒ぐわけではない。おにぎりを選びながら髪を見て、思ったより普通なんですねと呟く学生もいれば、こちらの顔を見て、今日は頑張れそうですと缶コーヒーを買っていく会社員もいる。俺は反射的に身構えるのをやめ、なるべく普段通りに声を出した。 いらっしゃいませ。探し物はありますか。 その一言をきっかけに、相手の目が商品棚へ向く。髪の色は会話の入口に変わった。珍しさで近づいてきた人たちも、話しているうちにいつもの客になる。温める弁当を間違えそうになった若い女性には、いつものおにぎりですかと先に尋ねると、そう、それ、と笑われた。写真を撮っていた高校生には、迷惑にならない場所でお願いしますと伝えると、急に真面目な顔で頭を下げられた。 閉店前、常連の男が缶コーヒーを持ってレジに来た。今日はやけに賑やかだな、と言うので、少しだけ有名人みたいですねと返すと、君がいるから店の空気が明るいんだろう、と肩をすくめた。その言葉に、熱くなっていた頬がようやく落ち着く。 気づけば、注目は俺を消耗させるものではなく、会話を生むための小さな灯りになっていた。銀色の髪は、隠すものではなく、店の目印になれる。俺はレジのモニターに映る自分を見て、少しだけ背筋を伸ばした。次の客が自動ドアの向こうで待っている。今度は、どんなきっかけで話しかけようか、そう考えながら呼び込みの声を整えた。
銀髪バイトのコンビニ日誌
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