翌朝、地球観測機関から緊急の通知が届いた。 未登録彗星は地球軌道と交差する可能性がある。衝突注意報を発表する。 紗良は受話器を握りしめた。添えられた予測図には、オリオンが送った位置データを基準にした赤い軌道が描かれている。その線は数日後の地球をかすめるどころか、まっすぐ青い円へ食い込んでいた。 「そんなはずない。そっちの位置だけで計算してる」 「わしの測定が間違っておると言うのか」 源三の声が沈む。紗良はすぐに首を振った。 「違う。おじいちゃんの記録も、私の記録も正しい。ただ、片方だけでは足りないんだよ」 天文台の机に、古い手帳を広げた。二つの彗星印の横には、細い矢印と、三日分の時刻が並んでいる。源三独特の記法だった。矢印は進行方向ではない。星を見たあと、望遠鏡を動かさずに待った時間を示している。 紗良は気づいた。彗星そのものではなく、尾の明るさが変わる瞬間を、祖父は記していたのだ。 「これなら地上から別の基準が取れる。尾がほどける時刻と、周りの星の色。軌道計算をやり直せるかもしれない」 一方のオリオンでは、源三が船員たちに囲まれていた。姿勢表示の矢印を見て、何度も眉を寄せる。 「彗星を正面から追うだけでは、わしらの星図しか増えん。横から見るんじゃ。少し船を傾けられんか」 「観測窓の角度を変えるには、計画登録が必要です」 船内の案内音声が即座に答えた。 「では登録しよう。目的は、地球を安心させることじゃ」 若い操舵員が笑い、源三の指示を航法図へ写した。彗星の進行方向から外れた位置に、短い観測経路が引かれていく。 地上では紗良が望遠鏡を固定し、宇宙では源三が新しい角度を選ぶ。同じ彗星を、違う場所から待つために。青白い尾はまだ、地球へ向かうとも、遠ざかるとも決めていないように見えた。
彗星は誰の空にあるか
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