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彗星は誰の空にあるか

小説ID: cmu489jrt003e01mzk824qjfo

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雲の隙間を抜けた光を、紗良は息を殺して追った。 「尾のほどけ方、記録した。時刻も送る」 オリオンでは、源三が観測卓の縁を握っていた。船は予定どおり彗星の横手へ回り込み、観測窓の向こうに地球と青白い尾を同じ視野へ収めている。 「こちらも核の位置を取ったぞ。地球の手前ではない。ずっと向こうへ回る」 真壁が航法図を拡大した。赤く地球へ突き刺さっていた予測線は、観測位置の変更とともにほどけ、青い地球の背後を大きく弧を描いて過ぎる線へ変わっていく。 「衝突コースではありません」 船内に安堵の声が広がった。紗良も手帳へ顔を近づけた。けれど次の瞬間、画面の弧は震えた。安全な軌道だった線がわずかに縮み、また遠ざかる。地上の雲間で得た尾の明滅を重ねても、誤差は消えなかった。 「まだ足りない」 紗良は言った。証明できる形に整えたい。誰もが納得する一本の線にしたい。その願いが強くなるほど、星図の周囲に薄い別の線が増えていく。 源三は黙って彗星を見ていた。 「紗良。わしらはまた、答えを先に決めておらんか」 「でも、地球のみんなに伝えるには」 「伝えるために見るのはよい。しかし、証明したいばかりに見れば、あれはまた別の顔を見せる」 その言葉に、紗良は祖父の手帳の余白を思い出した。星は問いに寄る。ならば安全だと示してほしいと願うだけでは、彗星を狭い答えへ追い込んでしまう。 紗良は鉛筆を置いた。 「何を通るかじゃなくて、どうしてそんなふうに見えるのかを見よう」 「うむ。あれが何を映しておるのか、急がず聞くんじゃ」 二人は観測の目的を書き換えた。衝突を否定するためではない。彗星の核、尾の明滅、雲に触れた光、地球と宇宙から異なる星の並びを、ありのまま記すために。 すると揺らいでいた航法図の線は、消えはしなかった。幾つもの淡い弧のまま、地球の背後を包むように広がった。その中心で彗星は、誰かの恐れでも安心でもない、静かな速度で進んでいた。

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