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忘却を載せた回収軌道

小説ID: cmucswpl5002501mz6ty9bh0x

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午前二時十七分、国立軌道観測所の地下観測室に、東京の夜景が浮かんでいた。 光の粒となった高層街の上空を、炎をまとった巨大な影が横切る。逆時鏡の円形画面に映る時刻は、七日後の午前二時十七分。影は雲を貫き、湾岸から都心へ向けて落ちていた。避難警報の赤い文字が街を染め、次の瞬間、映像は白く焼き切れた。 冬木玲は息を止めたまま、画面の記録を停止した。落下物の質量推定値は百万トン級。すでに運用を終えた軌道発電衛星の識別信号と一致している。あり得ない数値ではなかった。だが、衛星の現在軌道は安定しているはずだった。 玲は自分の計算を三度検算した。誤差は許容範囲内。外部観測網のデータにも異常はない。それでも逆時鏡だけが、確定した死を見せている。 装置は本来、観測光に残る微細な時間の揺らぎを増幅し、未来の軌道分岐を確率像として映すためのものだった。像はぼやけ、複数の可能性が重なる。それが理論だった。 しかし今夜の映像には、揺らぎがなかった。 玲は再観測の操作盤に手を置いた。警報を鳴らせば、所内はたちまち封鎖される。根拠の薄い未来映像を政府へ上げれば、自分の研究も装置も止められるかもしれない。それでも、あの白光を見なかったことにはできなかった。 起動音が低く響き、鏡面に再び東京が現れる。 玲の指先が凍りついた。 画面の時刻は、六日後の午前二時十七分だった。 落下の瞬間までの光景は同じなのに、表示された日付だけが一日早い。玲は記録を呼び出した。先ほど保存した映像の日時は七日後のまま残っている。装置の時計も、観測所の標準時も狂っていない。 未来が近づいたのではない。観測した結果、未来の側が一日、過去へずれたのだ。 玲は震える手で非常回線を開いた。連絡先の最上段には、療養施設にいる妻、梓の名があった。けれど発信ボタンを押す前に、逆時鏡の鏡面が暗転する。 黒い画面の中央に、衛星の落下予測とは無関係な一行が浮かんだ。 過去の観測値を修正せよ。 それは装置が出せるはずのない、日本語の指示だった。

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